電動自転車

えもーしょん 中学生篇 #42

電動自転車

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.08.04

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#42
「電動自転車」
(2010〜2013/カイト・中学生)

洗濯したばかりの制服のまま

ソファに倒れ込む。

皮張りのソファは、決して

ボクの汗を吸収することはなく

むしろ、跳ね返って

ボクのキレイな制服に浸透してゆく。

「あぁ、なんて憂鬱」

「こんなにも晴れていて気持ちがいいのに」

「生きているたけで暑いし」

「一呼吸ごとに汗をかいてしまっているよ」

「もう…」

じゅわり、じゅわり、と

出てくる汗をボクは全身で感じている。

やっと、我が家のポンコツエアコンが

動き始め、部屋の中が涼しくなったところで

冷静に考え事ができるようになってきた。

さて、何時くらいに学校へ行こうかな。

現在の時刻は、AM10:45。

お弁当の時間に、こっそり入って

そのまま、自然な流れでご飯を食べて

夕方の2限だけ教室にいようか。

そんな、作戦。

テレビに見飽きて、首が痛くなってきたら

いよいよ、準備を始める。

準備といっても、なにも持っていくものはない。

だって、学校は家の目の前だから。

家の玄関の前は、学校のテニス場。

家から、正門までは 

約50m

「あれ、学校行くの?」

ヨガから、帰ってきたママ。

「お弁当ある?」

「ないから、買ってから行くよ」

「そう? 車で買いに行ってこようか?」

「大丈夫、暇だから行ってくるよ」

空っぽのバッグを持って

玄関を開ける。

ガチャっと音がして

ミーンミーンミンミー

と、セミの声。

一瞬、くらっとする太陽に

「あぁ、やっぱりやめようかな」

なんて、思ったが

ここまで、来たんだやめられない。

「いや、でもなぁ学校へ行くよりスーパーへ行く方が遠いんだよなぁ」

「うーん」

「まぁ、でもお腹すいたからとりあえずスーパー行くか」

と、独り言をボサボサと呟き

自転車家に乗る。

ボクの自転車のサドルは黒い合皮。

こんなに、元気な太陽だ

それは、それはもう、事件。

よく、「夏の日のマンホールは目玉焼きが焼ける」

なんて、誰かが言っていたけれど

いやいや、ボクのサドルも負けていない。

しばらく、立ち漕ぎを続けるが

そんなのは、この暑さの中で

続くわけもなく

すぐに、座ってしまう。

しかし、まだまだ熱い。

まずは、制服のズボンからじんわりと

そして、パンツを超えると

じわり、じわりと暖かくなってくる

ここで、暖かいだけで止まってくれ!

と、心から願うも

想いは届かず

ヒリヒリするほど、ボクのお尻を

サドルが襲う。

「あ、ちょっ、あっ」

「ちょっ、ちょっと!」

「やめて〜!」

と、言いながら必死に自転車を漕ぐ。

途中、もうズボンはサドルの形に焼けているんじゃない!?

なんて、思うほど

なかなか、冷めないボクのサドル。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、

ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、

少し、頭がくらっとする。

スーパーへの、最後の難関。

急斜面の長い坂。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、

ふぅ、ふぅうううう、ふぅ、

ゲホ、ゲホ、

「もう、もう無理」

「やめて、はぁ、はぁ、」

「やめて、降参!こうさん!」

と、1人で嘆いていると

ジー、ジー、ヒュウウウウウウン、

と、後ろからボクの嫌いな

電動自転車の音がする。

こんな、急斜面を

やつらは、涼しい顔をして

登っていくのだ。

途中「大丈夫?」

なんて、顔をしてこちらを

チラリと見てくる。

「やめて、見ないで、」

こんな汗だくな姿を見られたくない!

と、電動自転車よりも先に行こうとするが

これが、残念なことに

まだ、中間地点。

「む、むり…」

「で、でも、でも、」

と、必死に思いペダルを踏み続ける。

気がつくと、電動自転車も疲れているのか

ボクを追い越してこない。

ボクが頑張っているのか

それとも、気を使ってくれているのか…。

続く


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