『Needles』のイージーパンツ

Just One Thing #12

『Needles』のイージーパンツ

_ami_(ミュージシャン)

Photo&Text: ivy

People / 2022.08.11

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#12

「髪の色はしょっちゅう変わる。あと、好きな服も。やってみたいと思ったらまず試してみないと気が済まないからさ」

 アッシュ気味のハイトーンヘアが涼し気で、ずっとこの髪色かと思うくらい馴染んでいる。恐らく最近彼女と知り合った人にはこのイメージが定着しているけれど、近いうちにまた違う色に染めるという。少し勿体ないような気すらしてしまうが、彼女にとってはいつものことらしい。

 サックスプレイヤーであり、インディーポップバンド『Simmer Pine(シマ―パイン)』でコーラス、シンセサイザーを担当している_ami_(以下、アミ)。好きな服が変わりやすい中でも、ずっと着ている服として持ってきてくれたのが『Needles(ニードルス)』のイージーパンツだった。光沢のある生地と暗めなパープルがいかにもこのブランドらしい。元々は、2年ほど前に撮影用の衣装として買った。不思議と髪色を変えても、普段着と合わせてもしっくり来たのだとか。



「服を自分で買うようになった時から、オーバーサイズ好きは変わらないね。全体のシルエットを見たときに、メリハリがあるのが好き。例えば、丈が短くて幅の広いトップスを着たとき、肩から下に広がって腰のラインで切れて、一度『ヒュッ』と締まるところが好き。このパンツもなんだけど、シルエットが気に入った服は割と長いかな。あとは...Needlesのパンツってサイドにラインが入ったトラックパンツのイメージが強いけど、これはそのラインがなくて。逆によく見ると見える柄があるの。そういうディテールにもグッときて」

 好きなブランドやテイストではなく、自身の感覚で好みを伝えることって意外と難しい。アミの場合は、自身の行動や嗜好について語るとき、必ず自分の考えを元に、丁寧に語ってくれるのが強く印象に残る。すごく真っ直ぐな回答が飛んでくる。
 ミュージシャンとしての彼女の活動において語るときも、それは変わらない。むしろ、自分の感覚を行動に落とし込むこと自体が彼女の中で当たり前になっているようにすら思える。

「サックスを始めたのは中学の吹奏楽部から。それまでもピアノをずっとやっていたけど、初めて見たときに自分で『これやりたい!』って強烈に思った。演奏している先輩の姿がめちゃくちゃかっこよく見えたのと、音色がすごく好きで。今思えば父親がフュージョン好きでずっと聴いていたから、無意識のうちにかっこいい音として頭に刷り込まれていたのかなって」

 音楽体験の入り口は、父親が車や家でかけていた日本のフュージョンバンドたち。カシオペアやT-SQUARE、渡辺貞夫…10代前半にして早熟な音楽体験だ。この時から服を選ぶのも、好きな音と出会うのも、同じこと。すべて彼女の感覚というフィルターを通して考えられている。
 感覚の揺れ動くがままに始めたサックス演奏にのめり込み、部活動を続けた中高時代。やがて、高校卒業のタイミングで転機が訪れた。

「(吹奏楽部の)顧問の先生に進路相談をしたのね。その時に音楽を続けたかったけれど、心のどこかで演奏で食べていく自信はなくてリペアの仕事がしたいって伝えたんだけど...。先生が『あなたは表現者になる人よ、勿体ない』ってはっきりと言ってくれて。自分の中でチキってたなというか、逃げの選択をしちゃうところだったから」

 音楽活動を仕事にする、プロになる。やはり、自らの意思で意識を改めた瞬間だった。どこかで意思を捻じ曲げようとしていた自分に、信頼する恩師から喝が飛んできた。音楽専門学校へ進学し、卒業後もアルバイトをしながらバンド活動を続けていく生活が始まる。学校の先輩が所属していたバンドへサポートに誘われ、演奏を買われて正式メンバーに。そのバンドの中でも特に音楽性を共感し、活動スタンスが一致した仲間と新たに組んだバンドがSimmer Pineだ。



「音楽で成功したい、有名になりたい。そこはみんな一致してるかな。あとは、みんなそれぞれがやりたい形で活動したいから、どこかに所属したり、プロデュースを受けて指示に従うよりも全部自分たちで決めて活動したかったの。だから、今はバンドメンバー以外にもヘアメークがいてマネージャーがいて...バンドを支える一つのクルーを組んでる。全部地元の友だちから誘ったりして集めているから意思疎通もできて、私たちがやりたいこともわかってくれているから活動は自由で」

 同じ目標を持つ仲間と、週4回は集まって練習する。音楽漬けの毎日の中で、アミは休日、どんなことをして過ごすんだろう。

「気が付いたら練習していたり、バンドでできることを増やすために勉強したり、音楽のことをしていると思う。音楽以外の趣味はあまり思い浮かばないかな。ただ、最近はバイトしていた会社のご縁で、同世代の音楽仲間じゃない子とお酒飲むことが多いかな。特にスタートアップ企業で働いている子たち。私と同い年(25歳)で会社を立ち上げたり、経営者をしている子がいて、すごく刺激になる」

 何よりも音楽が第一だけど、ミュージシャン以外の仲間と話すことで得るものがあった。

「みんな若いうちから自分で事業をやっているから、もちろん頭がいいんだけど、それ以上に自分で考えて行動を起こしているのがすごく共感できて。仕事以外の場面では、みんなフランクに話してくれるから楽しいね」

 言われてみれば、Simmer Pineで音楽面以外のプロデュースも手掛け、やりたいことを形にしていくスタンスは、自らビジネスを起こしていくスタンスに近い。何よりも自分の感性に忠実にあるために、必要だと思ったことはやってみたくなる。アミにとってそれは音楽ジャンルや担当楽器といった既存のカテゴリーに当てはまるものとは限らないのかもしれない。

「サックスって音のインパクトが強いから、必ずしもすべての曲に使うとは限らなくて、担当パート以外にも自分でバンド内でできることはやっていこうと思ってるの。作曲とか、PAとか...」

 やってみたいと思ったら、まず試してみたい。そのスタンスはファッション以外でも変わらない。自分の感覚で選択したことだから、やりたい理由は見えている。自分でできることが多い方が、結果として表現者としての自由につながる。そんなアミ自身の無数の選択、感覚に従うがままの「やってみたい」。その中の一つに、持参してくれたNeedlesのパンツも含まれている。自分に正直に生き続ける彼女のこれからを、音楽という作品を通して見てみたい。




_ami_(ミュージシャン)
サックスプレーヤーにして、バンド『Simmer Pine』でコーラスやシンセサイザーも担当している。バンド活動をする前から楽器に触れて育つ。音楽好きな父の影響もあり、音楽への目覚めは、フュージョン。
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