海と街と誰かと、オワリのこと。#13
元気でね
Contributed by Kite Fukui
People / 2023.01.26
何となく、3人でうまく卒業式を過ごした。3人で並んで体育館の椅子に座ってそれぞれ登壇して卒業証書を受け取る姿を見た。教室に戻って、担任の先生の感動的な話にクラスメイトは涙を流していたが、僕とゆきは泣くことはなかった。ゆきが先生の話を聞いているとき
「だから?」と言うような顔をしていて、笑ってしまった。あきほはクラスメイトと同じく泣いていた。
先生の話が終わったから、僕は帰る準備をする。2人とまたこうして会うことはあるのだろうか。また3人で喫茶店へ行って他愛もない話をして笑い合うことはあるのだろうか、そんなことを考えながら学校に放置していた荷物をまとめた。荷物をまとめて、教室を出ようとしたとき
ゆき「持とうか?」
とゆきが言った。うん、お願い。と言いたいけれど今そんなことを言っても別れの時間はほんの数分しか伸びないし、ちょっと引きずって分かれるよりもこの教室に僕らの思い出は置いて行った方がいいと思った。
僕「大丈夫、車で来てるから」
ゆき「そっか、オワリまたね。引っ越したら連絡してね」
あきほ「あ、私ゆきの家の近くだからまた会おうね!」
いや、きっと会うことはないよ。心の中の怪物は言った、なぜかこんな時だけ味方に感じた。辛い気持ちの中、同じ意見を持っているからだろうか。
僕「うん、元気でね」
またね、とは言えなかった。振り返ることも涙を流すこともなく重い荷物を持って教室を後にする。大切な物を置いて、全然大切ではない物を持って帰る。
駐車場で待っていたお母さんとお父さん。
母「ほら、やっぱり荷物ちょっとづつ持って帰らないから」
僕「ごめん、ごめん」
父「よく卒業できたなぁ、おめでとう」
2人は、ゆきのことを話さない。きっと悟っているのだろう、これが大人の気遣いって言うやつだ。それから、車に乗って3人でとんかつを食べた。1度家に帰って荷物を置いて、着替えてから不動産屋さんへ向かう。
夕方、不動産屋さんと4人で学芸大学の窓の大きい部屋を見に行った。
ちょうど、大きな窓から夕日が綺麗に見えた。沈むはずの夕日が僕には綺麗な朝日に見えた。高校を卒業して新しい日々が始まるんだ、不安なこともあるけれどだからってずっとくよくよしてなんかいられない。前に進む。
僕「この部屋にするよ」
母「まぁ、小さいけどオワリらしいからいいんじゃない」
父「窓が大きくていいなぁ」
続く
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