Williamsburg Mickey

Contributed by Madoka Yamasaki

People / 2017.11.15



いまの女の子にとって、ニューヨークはどんな街なのだろうと考えてみた。

マノロ・ブラニクの靴を履いた、華やかなファッショニスタが流行のスポットを巡るマンハッタンのイメージなのだろうか? マンハッタンだとしたら、どの地域だろう。キャリア・ウーマンが通うミッドタウンだろうか? 本物のパールのネックレスを制服の胸元に飾って高校に通うプレッピーな女子高生がいるアッパー・イーストだろうか? おしゃれなブティックとレストランが軒を連ねるソーホー地区? エッジーな雰囲気がまだ残っているダウンタウン?

どこも素敵だけど、今時のニューヨークに憧れているような女の子たちが好きなのは、マンハッタンからイースト川を渡ったところにあるブルックリンなのだろうと思う。特にウィリアムズバーグは何というか、「ブルックリンのヒップなアミューズメント・パーク」みたいなところがある。マンハッタンとウィリアムズバーグを結ぶ地下鉄L線に乗る人々は、遊園地に行く子供みたいな高揚感に満ちている。あなたが古着の可愛いワンピースを着て、フードマーケットのスモーガスバーグで買った「バター&スコッチ」のミントジュレ・パイを食べながらほろ酔い気分で歩けば、そこはもう、オーガニックで、サステイナブルで、インディペンデントな素敵手作り小物に囲まれた夢の国ウィリアムズバーグ・ランドである。

ここの「キャスト」になりたい。あなたはきっとそう思うはずだ。髪を高く結って素顔に黒縁のメガネをかけ、グレイのパーカーと黒いジーンズを無造作に着こなして「ラフ・トレード」でレコードを物色し、インディ少年たちの胸を熱くする係りがやりたい。民俗調の古着と最新モードをミックスさせたファッションで、ワイス・ホテルのレストランで打ち合わせしている何やらクリエイティブな職業の女の子を演じるのもいい。それとも古本屋「ブック・サグ・ネイション」でエドナ・ヴィンセント・ミレイの詩集を探す文化系少女の役。「オスロ・コーヒー・ロースター」の可愛いウェイトレスでもいい。でも、ウィリアムズバーグ・ランドは夢の職場だから、キャストの空きはなかなか出ない。ウィリアムズバーグ・ランドの一員になれることは名誉なので、薄給でも構わずみんな働くのだ。

そんなことを考えているあなたの瞳に、「ハルシオン」から出てきた一人の男の子の姿が映る。絶妙に色落ちしたデニム・シャツとジーンズ。履き慣らした感じのブーツ。肩から下げたさりげないキャンパス地のトートバック。他のやりすぎヒップスターとは違う、洗練されたこなれた感。そして黒い大きな耳。ウィリアムズバーグ・ミッキーだ! あなたの胸は高まる。ウィリアムズバーグ・ミッキーはウィリアムズバーグに一人しかいないとされている。ここに通っていても、なかなか巡り会うことは出来ない。一緒にセルフィーを撮って、インスタに写真をあげるチャンスだ。あなたはバレエ・フラットの靴でスキップしながら彼の後を追いかける。ねえ、待って、ウィリアムズバーグ・ミッキー! 私はあなたの大ファンなの! 周囲の人々は、ああ、ズーイー・デシャネル気取りのお上りさんだなという生暖かい目であなたを見守っている。あなたは構わずウィリアムズバーグ・ミッキーの背中に飛びつき、襟足にジッパーのホックを見つけると、衝動的にそれを下してしまう。するとデニム・シャツの背が裂けて、生身の人間の脂肪に覆われた背中が現れる。

あなたがそれを目にしたのと、ほぼ同じタイミングでコーヒー・ショップの地下室に通じているメタル製の落とし戸が開き、中からコンバット部隊が現れてあなたを連れ去る。地下室であなたはブルックリンの黒幕に怒られ、ウィリアムズバーグ・ランドの年間パスを取り上げられる。

この事態を重くみたウィリアムズバーグ・ランドの本部は安全対策を万全にするため、ハリケーン・サンディで生じたトンネルの破損を修繕するという名目でL線のエイス・アベニューからベッドフォード・アベニューを通行止めにすると発表した。2020年まで、あなたはマンハッタンからウィリアムズバーグ・ランドに行くことが出来ない。

これがL線修復工事の真実なのだ。という妄想をしたくなるほど、ウィリアムズバーグに憧れている女の子が夢想するウィリアムズバーグは輝いているんじゃないかと思う。L線の通行止めが始まるのは2019年の4月。ウィリアムズバーグ・ミッキーに会いに行きたいのなら、ちょっと急いだ方がいいかもしれない。

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