テレワーク

Emotion 第25話

テレワーク

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.21

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第25話

素敵な編集部で胴上げのように、君は売れる、文才があると持ち上げられて。そのまま、彼らの思惑通りギャラの交渉もせず提示された条件で契約をした。しかし、特に悪い気持ちもなくどちらかというと心はスッキリとしている。恐らく編集部の人達との相性が良かったのだろうと思った。

その判断能力はきっとこれまで沢山のアルバイトをして来た中で、合わないな。と思う人の特徴やパターンが自分のカスタマイズであるのだろう。

打ち合わせでは早速、来週から始めてくれるかな? と話が決まると早々にあちらのペースで飲み込まれつつあるがバイト先は潰れたし。時間はたっぷりあるので大丈夫ですよ。と僕はポロッと答えてしまった。帰り道にカフェで少しメモ書き程度に言葉をポチポチと絞り出してみた。これからは、念願のテレワークが始まる。

ふと、顔を上げて見えるあのイケメンや綺麗なお洋服を着ているお姉さんと同じように。僕もこのカフェでただパソコンを開いているのではなく、遂にちゃんと仕事をするのだ。そう思うと、スタバでパソコンを開いてはNetflixを見ていた時の事をようやく笑えるようになる。出来ることも、やりたいこともなく。ダラダラと時間だけが過ぎて、あの時あれやっておけばよかった。立ち止まらずに進んでいたら、今頃…なんて考えてしまうかもしれない不安があったけれど。そんな日々がやっと報われた気がした。

編集部の人達は僕の苦労話がどうやら好きらしい。こちらは胃がちぎれる思いで毎日生きていたけれど、そんな日々が羨ましいとまで言っていた。今すぐ会社を辞めて家に篭れば経験できますよ。と僕が言うと彼らは黙ってしまった。なんとか、巻き返そうと友人が1人で日本半周の旅をしていると話したら目の輝きを取り戻したので安心した。

明日から僕は遂に、何者かになれるのかもしれないと思った。


続く



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