NIRVANA好きが作った一冊の本とは?
(後編)
Photograph: Kyouhei Yamamoto
People / 2018.04.16
近年、ヴィンテージのバンドTシャツの価値が驚くほど上がっているのをご存知だろうか? 当時世界各国のライブ会場等で売られていたものが、現在高値で取り引きされているのだ。1万円を超えるものは当たり前で、なかには10万円以上するものまであるんだとか! とくに人気なのがニルヴァーナのTシャツ。20代からTシャツをはじめとするニルヴァーナ関連のグッズを集めていた門畑明男氏と、セレクトショップ「off shore」のオーナー、的場良平氏がニルヴァーナのヴィンテージTシャツを集めたコレクションブック『HELLOH?』を発売した。発売にプロセスを、おふたりに伺った。(前編はこちらhttp://container-web.jp/people/4494.html)
新しい価値というか、不思議な感覚でした
−−本を出版するためにクラウドファンディングを利用したのはなぜですか?
K:出版したいという話をしていたときに、協力してくれるという方がいて。その方が「今だとクラウドファンディングもありですよ」って教えてくれたんです。それからクラウドファンディングについていろいろ調べると、「CAMPFIRE」(2011年にローンチしたクラウドファンディングサイト)には目標額を達成してできるというやり方と、目標額に達成するしないに関係なく、集まった金額を全部使えるオールイン方式というのがあって。簡単に目標の100万なんて作れるわけないし、オールイン方式にしようって。
−−万が一目標に到達しなくても集まった分は自分たちの資金になるんですね。
K:そうなんです。たとえば30万しか集まらなかったとしても、その30万を本の制作に使えるので。
−−しかし、設定金額を大幅に超える金額で目標を達成されました。どのくらいの期間があったのですか?
M:2ヶ月ちょっとくらいですね。今思うと結構長かったですね〜。
https://camp-fire.jp/projects/view/49092(クラウドファンディング終了時のURL)
−−やっぱりドキドキしてました?
K:してましたね(笑)。最初はかなりドキドキでした。
M:毎回、「パトロンが現れました」ってメールが来るんですよ。その度に「おぉ〜!」みたいな、不思議な感覚ですよね。要は「お金ください」って言っているようなもんじゃないですか、昔はなかった新しい価値観というか。もちろんリターンがあるから、お金をもらってそれで終わりではないですが。お金が入っていると、すぐ入れてくれた人のアカウントに飛んで、知り合いかどうかを確認していましたね。知り合いだったら電話やLINEをして、「もしかして入れてくれた?」って。予想以上にみんなが応援のメッセージをくれたのが嬉しかったです。
K:最初は応援のメッセージの見方が分からなくて、気づいたときは募集が終わる一週間くらい前で(笑)。すごい数の応援メッセージが溜まっていて、みんないいことを書いてくれていて、最後の最後で感動したんです。
M:終わる瞬間にめちゃくちゃ感動するという。
K:綺麗ごとになっちゃいますけど、本当に感謝しかないです。ひと言になっちゃったんですけど、本のあとがきは、サポートしてくれた方たちに向けて書いてる部分もあるので。本を作るのって本当に大変なんだなって思いましたね。
−−過去に日本からヴィンテージのアーカイブ本『My Freedamn!』が出版されたり、最近ではヒップホップのヴィンテージTシャツを集めた『RAP TEES』も話題になりました。ただ、ニルヴァーナだけにフォーカスして1冊を作られたのは面白いですよね
M:そう言っていただけるのが一番嬉しいです。バンドTを寄せ集めた本は、いっぱいあるけど、ひとつのバンドだけというのは二度とないと思うんです。写真としてもデザインとしても、これを読んで新たな何かに気づいてくれる人がいるといいなっていうのが一番の想いですね。
こういうやり方もあるんだと示したかった
−−クラウドファンディング募集ページで拝見したんですが、セカンドアルバム『ネバーマインド』(1991年)のジャケットに写っていた赤ちゃんに会ったんですか?
K:あれは、知り合いがロスに行くタイミングがあったので、撮影してきてもらったんですよ。あの赤ちゃんは今何してるんだろうってSNSで探したら、いまして(笑)。この人多分そうだなと思ってメールで聞いたら「そうだよ〜」と。だから、「Tシャツ持って行くから、着てくれない?」ってお願いしました。タイミングですよね。僕が連絡したときにロスに行く人がいたり、この本を作るタイミングでシアトルに行く人がいたり、そこにプロのカメラマンもいて。お願いできることは全部してみようと思って、本当に人と人との繋がりでできたものだと思っています。
M:みんなで作り込むことができたし、本当にやってよかった。こういうやり方もあるんだよっていうことを示せればと思っていたので。とにかく若い人たちに、今俺らがやっていることが伝われば一番良いですよね。クラウドファンディングは特にね。
−−きっとこの本を出版したことで、NIRVANAのTシャツを持っている人と言えば「門畑明男」となりますね。
K:ニルヴァーナのアイコンでずっと居続けるというか、色褪せることのない一部になれればと思っていたんですけど、本で残せたっていうのは嬉しいですね。本当だったら好きなものを見て、買って、憧れて終わるじゃないですか? でもそっち側って言ったら言い過ぎですけど、半分足を踏み入れたかな?みたいな(笑)。
M:確実にそうなったと思います。門畑明男のこの想いを形にできたことや携われたことが一番嬉しいですね!
−−最後に、自分が持っているTシャツの中で一番好きな1枚はどれですか?
K:俺は黒のこれがいちばん好きです。多分最初に買った10枚のうちの1枚ですね。
M:難しいなぁ〜、やっぱりメールアドレスがオールアポロジーズなんでこれで。
K:でもすごい迷っちゃうな。一個ってなかなか選べないね。
M:やっぱり1番は選べない。比較なんてできないね(笑)。
好きなものを集めるということ。それが他人にとっては興味のないものだとしても本人にとってはとても価値があるもので、魅力的なこと。おふたりにとってそれが、ニルヴァーナのTシャツだったのだ。
さらに、その価値をたくさんの人に伝えたいという想いから、自分たちで本まで制作するという情熱。やりたいことをやってみるという姿勢、それを実現してしまう熱量はニルヴァーナを愛しているからこそ。
"新しい価値を生み出す”ことを目指す僕らにとって、好きなものを楽しそうに話すおふたりがとても輝いて見えた。
もしかしたら、あなたが集めているものも価値のあるものかもしれません!
Photograph: Kyouhei Yamamoto
Special Thanks: off-shore, Keiichiro Yoneda
<書籍情報>
タイトル:HELLOH?
出版:MUDPOST Co., Ltd
Tag
Writer
-
LUKE magazine
「anna magazine」から飛び出した、男の子のためのミックスマガジン、それが「LUKE magazine」。「世界は、アメリカは、僕たちが考えているより、ずっと広い!」を合言葉に、アメリカを中心に世界のあらゆるカルチャーを発信。誰もがワクワクできるコンテンツを提供します。