Emotion 第2話
ダメじゃん
Contributed by Kite Fukui
People / 2023.07.12
第2話
坊主にした。
この選択は本当に本当に奥の手だと思っていたけれど、とても早かった。
何かしないと、変わらないと、そんな事はいつでも分かっている。バイトの帰り道、メルカリで売れた買ったばかりのカメラを郵便局で発送した。自分は三日坊主の天才だと思った。
自分の手から離れ、伝票が貼られた小さな段ボールを見てなんだか申し訳ない気持ちが湧いてきた。
このカメラのことを忘れてはいけない、そう思った。このカメラと一緒に諦める心もどこかへ送らなければいけない。NIKON D5000とタトゥーでも入れるか。。。悩んだ結果、失恋で髪を切るように、三日坊主の精神を捨て去ろうと思い坊主にした。
最寄駅の高架下にある1000円カットに入り案内されて椅子に座る。長細いティッシュを首に巻いてカバーをかけてもらう。
美容師さん「どうしますか?」
彼のこの一言は覚悟を問われるようだった。
僕「坊主にしてください」
美容師さん「坊主? 何ミリにしますか?」
これは、短ければ短いほど自分への決意表明だ。
僕「スキンヘッド出来ますか?」
最後の出来ますか? は声が裏返ってしまった
美容師さん「スキンヘッドはね、出来ないんだ理容室じゃないと。MAX0.3mmかなぁ」
助かった。。。。
僕「0.3mmでお願いします」
美容師さん「はぁい」
パサり、パサり。長い髪の毛が落ちて来る。切り終わって目を開けたらそれからは新しい自分になるんだ。とバリカンの振動にビクビクし目を開けたい気持ちを抑え我慢した。
しばらくすると、掃除機のようなブラシで髪の毛を吸われる。この怠け者の心も諦める心も逃げる心も吸ってくれ!! と腹式呼吸で深呼吸をした。
美容師さん「こんな感じでどうでしょう」
目を開けると、自分は出家前の少年だった。なんだろう、髪の毛が無いだけでこんなにも丸裸にされたような姿なんだ。と驚いた。今まで格好つけてちょっとモテたくて、雰囲気ありそうな髪型をしていたけれど全て剥がされた。これは正真正銘新しい自分だ。
僕「ありがとうございます」
美容師さん「スッキリしたね」
嬉しかった。悩み続ける日々の中でそれを少しだけ褒めて貰えた気がした。
お店を出ると風が頭皮に当たって気持ちが良い。本当に何か出来そうな気がした。
続く
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