行った人から夏です

えもーしょん 大人篇 #41

行った人から夏です

2016~/カイト・大人

Contributed by Kaito Fukui

People / jul.13.2020

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。



#41
「行った人から夏です」
(2016~/カイト・大人)

バスを待って炎天下のなか。

アスファルトに伸びる陽炎と

暑さに伸びるボクと

滴れる汗。

「暑い」

梅雨が明けると、いよいよ

生きているだけで暑い季節がやってくる。

強風が吹き荒れた昨晩は

「梅雨ってこんな感じだったけ…」

と、窓の外を心配していた。

家の前の、ヤシの木は

ブンブンと左右に揺れ

小さな葉っぱも、大きな葉っぱも

右から左へ

左から右へ

飛んでゆく。

真夜中になっても風と雨は止むことなく走り続けた。

「うん、今日は凄い天気だったね。明日に期待」

と、愛犬のまい泉が心配そうにこちらを見つめているのでなぐさめる。

明日に期待。

なんて、自分で言ったのに

やはり少し心配になって

部屋の電気は消さずに2人で眠りにつく…。

荒々しい、吐息と

ムシっとした部屋の空気がボクを起こす。

「あっつい!」

嵐は去り、空は高く晴れていた。

時計を見ると自動車学校の予約時間が迫っている。

天気予報を見ることなく

急いで、シャワーを浴びて

適当な洋服に袖を通し

バス停へ向かう。

バスを待って、炎天下。

「行った人から夏です」

いつか、どこかで目にした

広告のキャッチフレーズが頭を過ぎる。

「行った人から夏…」

陽炎を切って、バスがやってくる。

扉が開いた。

まだ、開いている。

君は、乗るのかい?

運転手さんが不思議そうにこちらを見ている。

「行った人から夏…」

ボクの足は、しっかり地面を掴んでいる。

ボクの手には

「沖縄 格安航空券」

「沖縄 格安ホテル」

の、文字が並ぶ。

「期間限定! 東京発、沖縄那覇空港! 往復¥17.000」

なに!?

「さらに! ホテルと同時予約でさらにおトク!」

なに!!!???

次のバスがやってきた。

運転手さんの視線はもう気にならない。

バス停に並ぶ、サラリーマンの視線は

バスの方。

ボクの視線は、南の方。

「行った人から夏です」

確かに、ボクは口にした。

「行った人から夏です」

「そう決めたら、もう始まりです」

右手にはiPhone

左手にはクレジットカード

夏です。

今日からボクは、一足先に。

続く。


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