夢

海と街と誰かと、オワリのこと。#40

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.15

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


台風の日、朝から空はずっと暗く雨と風の音が家具の少ない僕の部屋に響いている。昔からこんな日ほど冷静になれる。誰もいない大荒れの海の沖で波を待っている時間を思い出す。緊張と同時に心の安らぎが重なる瞬間が好きだった。

今日のように外に出られないほど、雨と風が強い日は心地よく眠れる。そんな日は必ず波に乗っている夢を見る。サーフボードを押さえる僕の足には波の振動が伝わる。流れるように波の上を走り、周りの景色が伸びてブレている。

ふと、目を開けると昨日の夜に頑張って張ったキャンバスがさぁ、やってみろ。とこちらを見ている。夢で見た景色が影送りのようにぼんやりとキャンバスに映った。何を描けばいいのかわからなかったけれど、なんとなく待っていればきっとうまくいくと思っていた。想像するより見てきたものを描こうと思う、僕にとって大切な瞬間を生きている時間に残せたらいいな。売れたら嬉しいけれど、今は自分が納得出来る作品を作りたい。あまりお金のことは考えたくない。ジンのことを考えると頑張らないと、と思うけれど。今は目の前を見て進む。


続く



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