あとがき

Just One Thing #65

あとがき

ivy(エディター・ライター)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2024.10.31

突然のことだけれど、これで『Just One Thing』の連載は最終回にしたい。

「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」

街中にいる素敵な人、気になった人に愛用品を持ってきてもらう、この企画を始めてから合計64回。取材をきっかけに別の仕事を一緒にした人もいれば、密に付き合う友人になった人もいる。何より、今ファッションエディターとして仕事をしている一番のきっかけはこの連載を始めたこと。それでも、連載を終わりにしたのは一度この企画から距離を置いて新しいテーマと向き合う必要があると思ったから。

最後にこの連載を担当するライターである私、ivyから“あとがき”をお届けしたい。



高校生の頃、休みの日はお金もないのに一日中原宿周辺をぶらぶら歩いていた。目的は、ファッションスナップを撮られて雑誌に載ること。その時、自分が持っている服で一番の“お洒落をして”街へ繰り出していた。まだ紙のファッション誌に影響力があり、『CHOKiCHOKi』とか『Samurai ELO』とか、なくなってしまったり、休刊したりしている雑誌がコンビニや本屋に並んでいた頃だ。

当時は私に限らずそういう子が男女ともに街にたくさんいて、中には声を掛けられるまで同じ場所を何往復もしている人(私)もいた。そういう時に思ったことは「お洒落な人が沢山いるな」ということと、「この人たちと話してみたい」ということ。なぜ話したいのか当時あまり考えなかったし、見ず知らずの人へ話しかけるほどの度胸も当時の私にはなかったけれど、今だからこそ当時の気持ちに説明がつく。

何を着ているか以上に、なぜ着ているのか、そこに興味が向いていたからだ。何がお洒落なのかすら不確かだった15歳の頃、かっこいいと思ったのは好きな映画や音楽の中に出てくる人の姿。なぜそれがかっこよく感じるのか、どうすれば私もそうなれるのか、それを求めてファッションにも興味を持った。かっこいい人、お洒落な人ってなぜそう見えるんだろう。“かっこいい”ってどういうことなんだろう。漠然と話したら見えてくるような気がしていた。

大学生になってから、お洒落な友人が周りにできて、好きだったショップでアルバイトをして、何度か雑誌のスナップにも映って。そうして10代の頃の欲求が大体かなえられた後「何を着ているか以上に、なぜ着ているのか」を突き詰めたいという欲求が生まれてきた。ファッションメディアでインターンをしたり、副業としてライター活動をしているうちによりそれが見えてきて、徐々にこれを仕事にしたいと思った時、連載を持たせていただくことになったのが『Container』だ。

2022年の2月頃、連載の企画を考えるにあたって真っ先にこの願望を形にしたいと思った。こうして生まれたのがこの『Just One Thing』。


取材時に使用していたRollbahnのノートとPARKERのペン。途中から『Just One Thing』のインタビュー専用になっていった


それからは、スケーター、ミュージシャン、会社員、古着屋、敢えて肩書をつけたくないという人......。年齢も、生い立ちも、生活も、仕事も、それぞれ全く違う人と会って、話をしてきた。会えば会うだけそれぞれの人生があって、それによって形作られている今の姿があって、どれもたまらなく愛おしい。

自分だったら選ばない、別に好みではないスタイルだってある。でも、その人が着ていると魅力的で、どうしてそうなのか本人も周りもわからない。だからこそ、どうしてその人がそんなに魅力的で愛おしいのか、記事にしたくなった。

合計64人も会って、着ているものも、着ている理由も、それぞれ全く違う。ただ、回を重ねるうちに見えてきたのは、その“違い”をすべて引き出すほどの奥行きがまだまだ私自身に足りていないということ。

なぜそう思ったのか、なぜそう感じたのか、そこに寄り添い、想像して本人が思っている以上のものをその人の“スタイル”としてコンテンツにしていくために。記事を書き、取材をする前にもっと引き出しを増やしたい。同じようなことを聞いていたら答えも似てきてしまうし、そもそもこちらが相手の考えを狭めてしまっているかもしれない。

同じテーマを書き続けているうちに、そのテーマに対しての新鮮さが失われる前に、新しいテーマを書く必要があると思うようになった。

全65回。キリがいいのか悪いのか微妙なラインだけど、また新たなテーマで連載を始められたらと思っている。この連載を始めたときは、まだライターは副業で普段は普通のサラリーマンだった。今は個人のライター業と並行して、ファッションエディターとしてとあるアパレルの会社でコンテンツ制作の仕事をしている。好きなことで飯を食って、遊んで、24時間好きなことをしていられる人生になったのは、この連載がきっかけ。取材を受けてくれた人、担当編集スタッフ、そしてここまで読んでくれた人、記事に係わってくれたすべての人に感謝を伝えたい。それでは、また近々。



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