さようなら、ブルーハーツ

えもーしょん 高校生篇 #61

さようなら、ブルーハーツ

2013〜2016/カイト・高校生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.12.21

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#61
「さようなら、ブルーハーツ」
(2013〜2016/カイト・高校生)

きーがーくるいそおおおおおおおおお!!!

なななななななななななーーーーー!!!

試合前、ボクのヘッドホンからはいつもブルーハーツが漏れていた。

だが、ある日。

前日の夜、いつものようにベッドの上でプレイリストを作る。

「やっぱり最初は、リンダリンダ」

「そのまま、トレイントレイン」

そうやってゴロゴロしながら明日の試合をどうにか

ブルーハーツで乗り切ろうと、毎回頑張る。

今まで何回、何十回とそうして出たくない大会に出ては

各地を転々と回り、ボロボロの精神とブルーハーツと共に戦ってきた。

いつかは、この気持ちを誰かに正直に打ち明けなければいけない。

そんなことは、小学生の頃からわかっていた。

けれど直感的に、「今ではない」そう感じていた。

いや、そう感じていると自分に思わせて本当は言いたいけど言えない自分から

逃げていただけかもしれない。

だから、まっすぐ前を向くブルーハーツの歌が好きだったのかも。

ボクには無い正直な気持ちを歌う彼らに憧れていた。

高校3年生の全国大会は地元の海が会場。

両親含め、スポンサーも薄々わかっていたのかもしれない。

その大会は、いつにも増してみんなのやる気が違った。

ボクは相変わらず、やる気になりたいけどやる気になれない。

いまいち、気持ちがパッとせず集中も出来ずにいた。

そうしてボクの出番の2時間前くらいになって

「そろそろ、ブルーハーツかな」

そう言って、昨日作ったプレイリストを聞き始める。

いつもの大好きな歌が始まってすぐだった。

ボクは無心にヘッドホンを外す。

「なんか、聞きたくない」

嫌いになったわけでもない、飽きてしまったわけでもなく

なんか、聞きたくなくなってしまった。

そうしたら、ボクの中の何かがスッと消えてしまったのが確かにわかった。

あれはきっと、情熱だ。

女の子に冷めたなんて、比ではない。

今まで必死に、これだけは消させまいと常に薪を探し割り

いつ何時も、消さぬように灯し続けていた情熱。

日に日に、自分の中で炎が消えていくことは感じていた。

けれど、決して消すことはなかった。

それが確かに消え

ボクの沢山の経験は、思い出に変わった。

さようなら、ブルーハーツ。


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