海と街と誰かと、オワリのこと。#44
初めての個展
Contributed by Kite Fukui
People / 2023.03.22
涼しい朝の街を自転車に乗って走っている。渋谷の方へ向かうほど登り坂、下り坂を繰り返す。汗ばみながら坂を登り冷ますように坂を下る。昨晩搬入の帰り、歩いて家まで帰ったからギャラリーまでの道はなんとなくわかっていた。最後の曲がり角を曲がると、ギャラリーの前にジンが立っていた。
僕「おはよう」
ジン「おはよう」
僕「鍵空いてない?」
ジン「空いてるよ、荷物先に置いたよ」
僕「入らないの?」
ジン「うん、もう少し見てようかな」
僕「うん?」
ジン「オワリの絵は離れて見るとよく見えるでしょう」
僕「確かに」
ジン「ここから見ると、全部見えるから好きなんだよね」
網点の僕の絵は確かに離れて見るとよく見える。近くで見てもわかるものもあるけれど離れれば離れるほど見えないものが見えてくる。
僕「今日はたくさん来てくれるといいね」
ジン「大丈夫だよ、来るよ」
ギャラリーの奥に荷物を置いて2人で朝ごはんを食べに行く。魚定食がおいしい定食屋さんで、朝からアジフライを2人で食べる。昨晩の搬入は夜中まで続き、僕もきっとジンも夜ご飯を食べていない。ご飯を大盛りにしようか悩んでいることは彼の視線でわかった。メニューの下の「ご飯大盛り¥100」を僕も見ていたから。食べたいけれど、食べたら絶対眠くなる。と彼も考えているだろう。店員さんがこちらにやってくる。アジフライ定食をお願いします、と伝えジンを待つ。彼は僕もアジフライ定食をお願いします。と言った。大盛りにはしないらしい。
僕「大盛りじゃなくていいの?」
ジン「絶対眠くなる笑」
やっぱりな。ここの定食屋さんのご飯は、多くもなく少なくもない。ご飯が食べ終わる頃に少しおかずが残るくらいのちょうどいい量だ。最後に豚汁を飲んだらちょうどお腹一杯になることをジンに伝える。壁の上に置いてあるテレビで朝のニュースを眺める。今日も明日も天気がいいようだ。定食を食べ終わって、お腹いっぱいだね。とお店を後にするとギャラリーの前に何人か並んでいた。
ジンが、待っていた人たちを案内して僕は受付に座る。みんなTシャツはまだありますか?とジンに尋ね、ありますよ。と彼が答える。受付の方へ。と案内し僕の方へお客さんが並ぶ。受付の後ろにサイズごとに分かれたTシャツを取りに行ってお客さんへ渡す。Tシャツのデザインはジンが決めたチューリップの作品をオサムが撮影して発注してくれた。ポスターはメインの作品が採用された。オサムが撮ってくれた作品の写真は凄く綺麗で僕の筆跡がくっきり写っている。
しばらくして、かっこいいおじさんが大きなお花を持って来てくれた。誰だろう。と思いながら話しているとジンが慌ててこちらにやって来た。どうやらレコード会社の社長さんらしい。多く話さずよかった。。。。と思いながらあとはジンに任せた。彼は僕以上に僕の作品の説明をみんなにしてくれた。社長がメインの作品を買ってくれてから、大きい作品からなくなった。夕方になると撮影終わりのオサムがやって来た。1日中外で撮影していたらしく、なんでもいいからアイスが食べたい。と言うので差し入れでいただいたチョコアイスを渡すとしばらく放心状態が続いた。過酷だったのだろう。
夜はジンがパーティーを開いてくれた。招待制だけれどジンのバンドが演奏してくれて日中よりも沢山の人が来てくれた。ジンは演奏が終わると来てくれた人に作品を見せて、残っていた作品は気がついたら売れていた。最後のお客さんを見送るとジンはギャラリーの真ん中に倒れ込んだ。
僕「お疲れ様、ありがとう」
ジン「さすがにちょっと疲れたな笑 オワリが楽しそうでよかったよ」
オサム「オワリ、全部売れたの?」
僕「うん、ジンが全部売ってくれた」
オサム「流石だな」
オサム「俺も明日は朝から来るよ」
僕「ありがとう、朝ごはんは定食屋さんへ行こうか」
ジン「俺もう動きたくない。。。。ここに泊まろうかな」
僕「冷房寒いと思って搬入の時のカバンにブランケット入れておいたよ」
ジン「まじか。。ありがとう」
僕「僕も帰るの面倒になって来たから、泊まるよ」
僕「中目に銭湯なかった?1LDKの前に」
オサム「あるある、行く?」
ジン「そうだね、行こうか」
僕たち3人は中目黒の銭湯へくたくたになった足を動かし向かった。シャワーを浴びて外の露天風呂で電車の音を聞きながら夏の都会の空を眺めた。長湯できない僕から先に着替えてコーヒー牛乳を飲む。おじいちゃん達と野球の中継を見ながら2人を待っていると、オサムがやって来た。好きな球団が戦っているらしい。
ジン「生き返ったー」
僕「よかったよかった」
僕「遅かったね、のぼせているのかと思ったよ」
ジン「水風呂に入ってた」
僕「なるほど」
オサム「戻るかぁ」
帰り道。コンビニで下着と靴下、Tシャツを買ってギャラリーへ戻る。入り口がガラス張りで外から丸見えだけど、そんなことは気にもならないほど疲れていたので僕らはすぐに眠りに就いた。
続く
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