「テルアビブ・オン・ファイア」を語る男と女

TYPE OF MOVIE#10

「テルアビブ・オン・ファイア」を語る男と女

Contributed by LUKE magazine

People / nov.22.2019

同じ映画を観ているのに、男と女で感想が全く違うことがある。印象に残っているシーンも、劇中の曲に対する評価も違う。「TYPE OF MOVIE」では、そんな男と女の感性の違いにフォーカスを当てながら、今注目の映画をご紹介! 第10回目は「テルアビブ・オン・ファイア」です。



「テルアビブ・オン・ファイア」を観て、個性的なキャラクターたちの会話の中に面白さと作品の深みを見出した男と映画のストーリーを身近なものごとに投影しながら作品に込められたメッセージを感じた女。



「テルアビブ・オン・ファイア」について


パレスチナ系イスラエル人のサメフ・ゾアビ監督が、複雑なパレスチナ情勢を皮肉とユーモアに包んで描いたコメディドラマ。1960年代の第3次中東戦争前夜を舞台にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」。その制作現場でインターンとして働くパレスチナ人の青年サラームは、撮影所へ通うため毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、妻がドラマの大ファンだという検問所の主任アッシから脚本のアイデアをもらったサラームは、制作現場でそのアイデアを認められて脚本家へと出世するが……。主人公サラーム役に「パラダイス・ナウ」のカイス・ナシェフ。2018年・第31回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。

男と女の映画レビュー


Q1.本作は、イスラエル人とパレスチナ人との間のコメディになっているけど、観る前に思い描いていた中東のイメージを教えて。


男/宗教の問題などがあって、いざこざが絶えない地域というイメージがありました。でも、実際にそこに住んでいる人がどんな人なのかとか、どんなものを食べてるのかといった文化についてはそこまで知らなかったです。

女/宗教的な思想が強く国と国が対立しあっていて混乱しているようなイメージ。とはいえ、あまり身近な地域でないのであまり理解は深くないです…。


Q2.パレスチナ人の青年サラームがイスラエル人の軍司令官アッシに、ドラマの脚本について相談をしている姿は、あなたにどう映った?


男/検問所での出会いから、ドラマの脚本に関して報告しなければいけない仲になってしまったわけですが、サラームが飄々とアッシの要求をやり過ごしてる感じがパレスチナの青年ってこんな風なユニークな感じなのかなと思いました。映画の終盤でサラームが能天気な色男として暮らしてきたわけでないことがわかるわけですが。

女/国も職業もまったく違う2人が、1つの作品について色んな目線で意見を交換しあい、より良いものができていく過程は、ある種ものづくりの醍醐味でもあるのかな、と感じた。


Q3.お気に入りのシーンなどを教えて!


男/映画の終盤にサラームとアッシがカフェで話すシーンは良かったです。
それまでくすくす笑える場面が多かったのですが、サラームが話すセリフにいろんな思いが詰まっていて、この映画が作られた意味の深さを考えさせられました。

女/・アッシの家族がドラマを食い入るように見ているシーン。ドラマに熱狂する感覚は万国共通なんだな、と異国の話ではあるけれど妙に親近感が生まれた。

・サラームがアッシにフムスを差し入れするシーン。
フムスという味が想像できない謎の料理(あまり美味しくなさそう)が気になりました。


Q4.この映画の見所を教えて。


男/サラームとアッシ、またドラマのメイン女優のタラどのキャラクターも個性的で面白いです。中でもドラマプロデューサーのバッサムは一癖も二癖もあるおじいさんで彼が何か発言するたびに、ひやひや、クスクスとしてしまうこと請け合いです。

女/予想外のラストシーン。アッシの幸せそうな顔が印象的でした。


Q5.「テルアビブ・オン・ファイア」に、あなたなりのキャッチコピーをつけるなら?


男/「素人? 見習い? いえいえ、天才脚本家の誕生です」
サラームは脚本を作ったことのない素人脚本家として映画はスタートしますが、実は彼には周囲の人の会話を上手に聞き取る力や自分の経験を脚本に活かす力が備わっていたことが映画の節々からわかります。その能力が遺憾なく発揮されたのが「テルアビブオンファイア」。脚本のいろはも分からなかった彼は実はその才能に気付かずにいただけの隠れた天才だったのです。

女/「追い詰められた人間の、真の姿とは」
民族問題という複雑さもあるけれど、色んな事象に翻弄されながら「やるときはやらなければいけない」というシンプルなメッセージも込められていると感じたので。


そして、3人目(男)のレビュー


中東問題の皮肉さとユーモアがちょうどよく混ざり合う傑作コメディ


今回の映画は、中東問題というシリアスで難解な題材にも関わらず、ストーリーや演出はとてもわかりやすく、ユーモアに富んでいる。ストーリーの中で度々出てくる検問所。生活エリアを追いやられているパレスチナ人にとって、苦痛以外のなにものでもないこの場所からストーリーは始まる。パレスチナ人とイスラエル人、相容れない二人がドラマの脚本について話し合う姿は新鮮そのもの。その中で、立場や権力の問題を浮き彫りにしながらもユーモアに富んだセリフやストーリー展開、個性豊かなキャラクターを通して、コミカルに現地の人々の姿を描いている。

読者にお伝えしたいのは、中東問題について少しでも知識を身につけてからこの映画を鑑賞してほしいということ。そうすることで、この作品が格段に面白くなってくるからだ。私もレビュアーの男女と同じく、中東問題に関して詳しく知らずしてこの作品を鑑賞した。あとになって気になり、調べるうちにだんだんとこの作品の素晴らしさと面白さがわかってきた。この問題を簡単にいえば、ある日突然パレスチナ地区にイスラエル軍が押し寄せてきて、武力を行使し土地を占領(その背景にはイスラエル以外にも多数の国が絡んでいるのだが…)そして、特定の居住地を作りパレスチナ人を追いやった。1947年から幾度もの争いを重ねながら、深刻な状況が今なお続いている。

先の見えない問題にメスを入れるかのように、コメディタッチで展開されるストーリーは、製作陣にとっても新たな挑戦だったのではないかと思う。中東問題を取り上げた映画は数多くあれど、これほどキャッチーな映画は他にない。社会風刺でありながら笑える。スタイルや時代、国は違えど、現代のチャップリンのようなメッセージ性のある傑作コメディだ。



【作品情報】
「テルアビブ・オン・ファイア」
監督:サメフ・ゾアビ
脚本:サメフ・ゾアビ、ダン・クラインマン
撮影:ロラン・ブリュネ
編集:キャサリン・シュワルツ
出演:カイス・ナシェフ 「パラダイス・ナウ」「オオカミは嘘をつく」、ルブナ・アザバル 「灼熱の魂」「パラダイス・ナウ」ヤニブ・ビトン、マイサ・アブドゥ・エルハディ 「ガザの美容室」、ナディム・サワラ、ユーセフ・スウェイド
2018年/97分/ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー/カラー/アラビア語=ヘブライ語
配給:アット エンタテインメント
©Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623
11/22(金)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

【主な映画祭出品、受賞歴】
アカデミー国際長編映画賞ルクセンブルク代表
第75回ヴェネチア国際映画祭 作品賞&男優賞<オリゾンティ部門>受賞
第45回シアトル国際映画祭作品賞受賞 /第 31 回東京国際映画祭コンペティション部門出品
第34回ハイファ国際映画祭 最優秀作品賞受賞/第 12 回 アジア太平洋映画賞 最優秀脚本賞受賞
第23回サン=ジャン=ド=リュズ国際映画祭 2018 グランプリ&ヤング審査員賞受賞/第21回サラソタ映画祭 観客賞受賞
第59回テッサロニキ映画祭/第 29 回 トロムソ映画祭/第 43 回香港国際映画祭/第19回パリ・イスラエル映画祭
第47回モントリオール・ニューシネマ祭/第 14 回チューリッヒ映画祭 コンペティション作品/第 63 回コーク映画祭
第48回ロッテルダム国際映画祭/第 9 回ルクセンブルク市映画祭/第 24 回ヴィリニュス国際映画祭
2019 イスラエル・アカデミー賞(オフィール賞)脚本賞受賞

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