なんか違う

海と街と誰かと、オワリのこと。#48

なんか違う

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.29

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ジン「なんかさ、めっちゃどうでもいい話なんだけど」

デニムとTシャツ。過ごしやすい天気の日、碑文谷公園のポニーをフェンス越しに眺めているときジンは呟いた。

僕「うん?」

ジン「電車に乗ってて凄いトイレに行きたくなってさ、でもその電車快速で」

僕「うん」

ジン「あー、結構やばいなぁ。って多分もじもじしてたんだよね、俺」

僕「うん」

ジン「その時にさ、ふと前に座ってる人が視線に入ったの」

僕「うん」

ジン「目が合ってさ、その人もなんとなくトイレに行きたいんじゃないかなって思ったわけ」

僕「うん」

ジン「で、次の駅に着きそうな時に同じタイミングで立ち上がってさ。ドアが開くのスタンバったのよ」

僕「ほう」

ジン「あー、もう絶対トイレじゃん。って俺もその人も思ったんだよね」

僕「うん」

ジン「それで、ドアが開いてその人は慣れていた駅だったっぽくて。小走りで向かったわけ。」

ジン「でも、俺はその駅トイレのために降りただけで初めて降りたからどこにあるかわかんなくて」

僕「うん」

ジン「矢印見つけて、トイレに辿りついたんだけど。まぁ、埋まっててさ」

僕「うん」

ジン「結構、ヤバイな、もう無理かもなって思いながら立って待ってたのよ」

僕「うん」

ジン「そしたらさ、一番最初に出て来た人が電車にいた人だったの」

僕「うん」

ジン「まぁ、凄いスッキリした顔してまた目があったんだけど」

ジン「なんか、気まずくてそこ意地でも入らなかったんだよね」

僕「なんで」

ジン「なんか、ライバルに負けた感あってさ」

ジン「すぐ、他が空いたからそこに入ったんだけど」

僕「うん、よかったね」

ジンは何かを言いたそうに、言葉を選んでいるような気がした。きっと菊池さんの一件だろうけれど、流石のジンでもワンクッションを置いて来た。別にいいのに、と思いながら彼の話を聞く。

ジン「何が言いたいかっていうと」

僕「うん」

ジン「なんとなくでも、相手のことわかるときってあるじゃん」

僕「うん?」

ジン「トイレの時みたいにさ」

僕「ほう」

ジン「何が言いたいかっていうと、菊池さんの件ありがとね」

僕「なんだよ笑、全然大丈夫よ」

ジン「いや、大丈夫じゃないでしょ」

ジン「なんですぐ連絡しなかったの?」

僕「ジン、呼んだら絶対喧嘩になるでしょ笑」

ジン「いや、そういうことじゃないでしょ」

僕「うーーん、でももう終わったことだし。」

ジン「納得は出来なくない?」

僕「納得するより、楽しく過ごしたいな」

ジン「なるほど、オワリらしいね」

僕「ジンが戦おうとしてくれた気持ちは嬉しいけど、関わった瞬間に負けだと思うよ」

この一件をジンが知ったのは、イベントの次の日だった。会場にいた人の友達がなんか、やばそうだよ。と連絡したらしい。それからすぐにジンから連絡が来て、説明をしたけれど。彼は納得ができないから。と菊池さんのところへ向かおうとしたところをオサムと2人で全力で止めた。とりあえず合流してジンにお酒を飲ませてぐっすり寝かせ、オサムと家まで担いで帰った。

ジン「そうか。。。」

僕「うん、それなら要求をちゃんと飲んでさ。気にしないで関わらないで楽しく過ごした方がいいじゃん」

ジン「そうだね」

僕「でも、なんか違う。と思うならいま話した方がいいよ」

ジン「うん?」

僕「この話は、ポニーが厩舎に戻るまでにしよう。それからは一切話さないから」

ジン「あと、半周しかないじゃん」

僕「トイレの話が長すぎんだよ」

ジン「そうね、うーん。。。。悔しいけど、オワリが正しいと思うから」

僕「あと二十歩くらいよ」

ジン「おけ!大丈夫!」

僕「うん、それでいと思うよ」

ジン「焼肉ランチ食べる?」

僕「いいね、東紅苑???」

ジン「いいよ、奢るよ」

僕「ありがとう、じゃ一応オサムにも連絡しようか」

ジン「そうだね笑」


続く



アーカイブはこちら

Tag

Writer