台風を

えもーしょん 小学生篇 #45

台風を

2003〜2010/カイト・小学生

Contributed by Kaito Fukui

People / jul.31.2020

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#45
「台風を」
(2003〜2010/カイト・小学生)

病院の待合室にいる。

隣からは湿布の匂いがプンプン。

ロボットのように

首が回らないらしい。

「だから言ったのに」

待合室で、雑誌とテレビを見ながらボクが言った。

「出来ると思ったんだけどなぁ」

「もう若くないよ…」

「いやいや、まだ若いよ」

「そうかなぁ」

「そうだょぅ」

「うーん…」

「まぁ、大丈夫そうだったら週末は千葉だね」

「結構出来そうだよ」

「千葉…行けるかなぁ」

「行けるでしょう、喋ってるし」

「喋れるけどなぁ」

「大丈夫だよ」

看護師さんに呼ばれ

診察室に入って行く。

しばらくして、出て来ると

なんとも恥ずかしい

コルセットを首につけたパパがやってきた

「首長くなったね」

「これは、千葉無理だな」

「無理かぁ…」

「まぁ、来週波上がりそうだし」

「少し我慢だな」

「いやー、行きたいなぁ」

「行きたいって言ってもこれは無理だよ」

と、千葉行きを諦めたパパ。

気を遣ってくれたのか、帰りは

ボクの好きな、豚骨ラーメンのお店に寄った。

テーブルに置かれた少し辛い

もやしを2人で全部食べてしまい

店員さんに白い目で見られたが

そんなことは気にしない。

千葉へ行けないのだから。

湘南が波が上がってきそうなのは

週半ばから

ちょうど1週間先だ。

なんとか、早くパパの首が治ることを

願うが、隣でラーメンを食べる姿を見ると

絶望的だ。

家に帰るとすぐに、波予測のサイトを見た。

「あ〜やっぱり千葉は良さそうだよ。週末」

「もしかしたら、結構いいかも」

「そう言ってもなぁ」

「だよねぇ…」

だんだんと、空が怪しくなって来た

テレビをつけるが

まだ、天気予報まではたどり着かない。

そろそろかなぁ、なんて

2人で見ていると

台風の進路予想が映し出された。

「想定よりはるかに速いスピードでや関東沿岸部にやって来ます!」

「十分な警戒をしてください!」

と、気象予報士さんが言っている。

「あれ、もしかしたら明日から上がって来るかもね」

「この感じだとそうだね」

「あー! 残念ですねー! 首が!」

と、笑ってパパを見ると

少し、まじで怒っていた。

そんなに怒っても自業自得なので

ボクは何も悪くない。

クスクスと笑っていると

タバコを買いに出て行った。

「あー、良かったー! 明日からできそうだよ」

「良かったね」

と、ママが買い物から帰って来たところだった。

「お昼は食べたの?」

「うん、ラーメン食べて来た」

「また、ラーメン!」

「たまには、チャーハンとか食べなきゃダメだよ」

「はいはい」

次の日。

無風の、初夏の朝。

少し霧が出ている家の前の海へと続く道路には

ゴォォァォォォ

と、波の音が聞こえる。

「まさか!!!!!」

と、急いでスケボー に乗り

陸橋へ向かうと

そこには、首にコルセットをつけた

1人の男がタバコをふかして立っていた。

「おー、おはよう」

首は、回らないが

どうやら、ボクの気配はわかるらしい。

「おはよう〜」

「どう?」

「おーーーー!!! めっちゃいいじゃん!」

「うーん、いいなぁ、早く行ってこいよ見てるから」

「はーい!」

陸橋の坂道をガーーーーーー!!!!! っと

スケボーで降り

そのまま家まで走った。

すぐに海パンに着替えて

ワックスを塗って家を飛び出す。

陸橋の上は通らずに

国道をショートカットして

パパに手を振る。

首にコルセットをつけているせいか

やけに、寂しそうなパパ。

まぁ、自業自得だから

仕方ないね。

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