American mushup

あなたの好きなアメリカ

Contributed by anna magazine

People / 2018.11.07

「アメリカが好きだ。どこが好き?って聞かれると何から話したらいいかわからないくらい、ファッションもカルチャーもスケールの大きな自然も何もかも魅力的で、きっと自分でも気づかないくらいたくさんの影響を受けた」

毎回そんなアメリカ好き同士が集まって好きなようにマッシュアップトークを繰り広げる。記念すべき今回は“沖縄にあるアメリカ”を撮り続ける写真家の岡本尚文氏、出版社TWO VIRGINSの出版企画担当の後藤祐佑氏を迎えた。共感と発見でマッシュアップされて浮かび上がるアメリカの魅力とは?

座談会メンバー

岡本尚文 写真家。東京と沖縄を往復し、“沖縄のアメリカ”を撮り続けている。主な著書に『沖縄01 外人住宅』『沖縄02 アメリカの夜 A Night in America』

Two Virgins:後藤佑介 Two Virgins出版企画担当。『annabooks』をはじめ熱量の高いカルチャー系書籍を多数手がける。米軍ハウスなどを取り上げた『FLAT HOUSE LIFE1+2』の復刊なども企画。

Mo-Green:須藤亮 anna magazine編集長。自社媒体をはじめ、様々なクライアントワークを統括する。


Q.そもそもみなさんのアメリカ好きの始まりは?

須藤:僕は茨城の外人住宅の真ん中に住んでいたんです。身体が大きい外国人が苦手だったんですよ。けど2軒隣に住んでいた兄妹がいつも「BACK TO THE FUTURE」から飛び出てきたような格好で遊んでて、その感じが幸せそうだなってずっと思ってました。そしたらいつの間にかアメリカに興味を持っていました。ちなみにその兄妹はアメリカ出身だと思っていたらカナダ出身でしたけど。

後藤:僕はずっと住んでいたのが町田とか相模原のあたりで。米軍の住宅エリアなんかが近いこともあって、父親がアメリカにかぶれていたんです。ブルックスブラザーズとか、ケネディ一家みたいな感じが好きでしたね。

須藤:「華麗なるギャツビー」みたいな?

後藤:そうですね。(笑)
あとは米軍の近くだと、クリスマスとかのイルミネーションがすごいんですよ。「THE アメリカ!」というか、小さい時TVで流行っていたドラマ「フルハウス」とかの世界が意外と身近にあるんだなって思いました。それからずっと昔のアメリカ映画を見たり、あと父親が毎年誕生日にアメリカのミュージシャンのCDをくれたんですよ。完璧に自分の趣味なんですけど、ボブディランとか。
本当はGLAYとかL'Arc〜en〜Cielが聞きたいのに買ってもらえなかったですね。
でもそのおかげでアメリカに興味が湧いて、中学生くらいの時にロックに興味を持ち始めて、ファッションもリーバイスとか、レッドウイングとか。それがカッコいいっていつの間にかなっていました。

岡本:僕もやっぱり音楽だよね。はっぴいえんどとか細野さんとか。彼らの音楽のルーツと言われている福生とか狭山とかにも行ったりしました。
ただ、お金はないから聞きたいものが全部聞けるわけじゃない。一世代上の人が聞いていたものを後追いしてました。
あと大学の時に友達が座間の米軍ハウスに住んでいたので、クリスマスパーティーとかしてアメリカ人ごっこをしていました。

Q.なるほど(笑)。特に好きな年代とかはあるんですか?

岡本:やっぱり60年代後半から70年代のアメリカが好きですね。80年代は苦手でした。その頃はちょうど大学も卒業して、アシスタント時代だったというのも関係してるかも。

須藤:僕は80年代が好きだったんです、キラキラしていてポップで、幸せそうで。そんなポジティブなイメージを伝えたくて『anna magazine』を発行してます。アメリカのあの大づくりな感じって可愛いですよね。70年代は思想的な感じがかっこいい。80年代はガサツだけど可愛い。でも僕には80年代の“いなたさ”が魅力的に見えました。

Q:昔のアメリカの良さって、やっぱり音楽に表現されていますよね。

岡本:70年代のレコードって音が良かったんですよね。納屋とか地下で録音したり、スタジオじゃないところで録音してる。それがすごく良い音で、今はそれが新しい。クリアというより空気感ですかね。

須藤:写真に似てますね。いくらでも鮮明にはできるけど。そうじゃない良さというか。

岡本:確かにそうですね。でもそう考えると今の人は大変ですよね。わざわざ慣れないフィルムで撮影したり、アナログで出来た写真をまたデジタル化してインスタにアップしたり。

須藤:今のアメリカはどうですか?

岡本:嫌いじゃないですよ、けど自分の本当に好きなものはやっぱり過去のものが多いですね。

後藤:僕はそんなにアメリカにたくさん行ってるわけではなくて、行ったのは西海岸くらい。そこでまず思ったのは気候が良いなってことですね。アメリカのカラッとした感じが好きなんです。


岡本氏が思う「沖縄のアメリカ」について。
写真集『沖縄02 アメリカの夜 A Night in America』を見ながら。







Q.すごくかっこいい写真集ですよね。

岡本:ありがとうございます。基本的に人は写らないようにしているんです。人が入ると10年経つと古臭くなってしまうから。

須藤:今は沖縄に住んでいるんですか?

岡本:沖縄と東京に半分ずつくらいです。沖縄で外人住宅(沖縄では米軍ハウスを外人住宅と呼ぶ)を借りたのは15年くらい前ですが、実際に住みだしたのは6年前。それまでは3人でシェアしていました。

須藤:後藤くんも米軍ハウスに住んでいるんですよね?

後藤:はい。古いものが好きで。平屋だと2階に行かなくていいので楽です(笑)。でも息子はトイレとお風呂が一緒にあるのが普通になっていて、友達の家に行ったらセパレートされていてびっくりしたらしいです。

須藤:それはそうですね。
岡本さんが沖縄に興味を持ったのはいつからですか?

岡本:最初に行ったのは高校3年生の夏。船で旅行に行ったんです。2泊半かけて友達と2人で、テント持って。
2週間くらいかな。アメリカっぽいものを探しに行きました。

須藤:その時の沖縄にはそういうものがたくさん残っていたんですか?

岡本:そう、もっと米兵相手のいろんなお店とか。高校生だからあんまり入れなかったんですけどね。アメリカナイズなものがありながらエイサー(毎年旧盆に行われる盆踊りのようなもの)っていう文化があって、米兵もいる街中を夜中まで踊りながら練り歩くんですよ。その頃は夜の街も今みたいに明るくなかったから、それがとても衝撃的でした。なんでそういうものが共存するのかって考え始めたら面倒臭かったんだけど。でも沖縄の人っていうのは折り合いをつけていくんですよね。外人住宅、タコライス、音楽もそうです。

須藤:ミクスチャーなんですね。

岡本:ただ受け入れるだけじゃなくて作っていく。それを表しているのが外人住宅だと思います。







須藤:今の沖縄にはどれくらいアメリカが残っているのか知りたいですね。

岡本:本当に普通の生活もあってアメリカもあって、観光客もいて、ごちゃごちゃで面白いですよ。ソーキそばとかも食べるけど、今はラーメンが流行ってます。日曜日の朝は家族でパンケーキを食べにカフェに行くのも好きみたいですね。ココイチの唐揚げ乗せカレーや焼肉食べ放題とか、アメリカ人はそういうのをよく食べています。何か食べ物の話ばかりになっちゃいましたね(笑)。

Q.すごいですよね、子供の時に興味を持った沖縄に今もずっと興味を持ち続けているのは。

岡本:しつこいんでしょうね。(笑)

須藤:岡本さんの仕事の写真はファッション的でエレガント。けどこの写真集は男くささが満載。そのチャンネルの切り離しかたというか。不思議です。小さい頃からの思いが爆発してこんなすごい本を作って。ずっと変わらない思いがあるんですね。

岡本:なんか同じことを繰り返すのが好きなんですよね。
ファッションだと新しいことをやらなきゃいけないので、撮り方とか機材も変わりますよね。でも僕は基本的にずっとフィルム的な仕上がりが好きっていうのは変わらないんです。なので「沖縄のアメリカ」を撮る時は自分の好きな手法で好きに撮っています。

須藤:若い時アメカジ雑誌を読んでいて「沖縄にもアメリカがあるんだな」という印象がありました。岡本さんの写真集を見て、きっとこの人はライフスタイルも全部アメリカ的なんだろうなって思っていました。お会いしてみたら、すごくスマートで洗練されている方で正直驚きました。

岡本:そんな風に思っていただいたんですね。ギャップが好きなんです。全然マッチョじゃないし。(笑)

須藤:写真を見て思ったのが、「外側から見ている」感じの、第三者的な視点です。僕たちが『anna magazine』を作ってる時と似ているかもしれません。当人にはなれないから、一生エイリアンでいようって思っているんです。

岡本:沖縄に対してもそうなんですよ。住んではみましたが、ウチナンチュ(沖縄出身の総称)には絶対なれなくて、本土の人をナイチャーっていうんですけど、そのことを自覚していないと。細野さんがやってることもそうなんですけど、アメリカ文化が好きだけど、アメリカ人になることはできない。日本人がアメリカの音楽を解釈するとどうなるのかっていう問いの答えが彼らの音楽なんだと思うんです。

須藤:一回翻訳が入るってことですね。不思議ですよね。沖縄に家があるのに沖縄感がないというのは。

岡本:多分対象との距離感が掴めないと、今に繋げられていないんだと思います。

Q.『アメリカの夜』というタイトルは?

岡本:昼間は見えないんだけど、夜になると現れるアメリカ。街灯がオレンジで、よく見るとそれは基地の街灯なんですよ。白黒がはっきりわかるから人が動いているのがすぐにわかる、そういうところにアメリカが現れると感じました。

須藤:色が象徴的、オレンジもそうですけど、グリーンも。全然アメリカが関係ないものもありますよね。

岡本:それもよく見ると、アメリカにまつわるものが写ってるんですよ。畑に米軍のヘリが写ってたりします。写真以外もそうですけど、想像力を鍛えないと見えてこないような仕掛けがあります。

須藤:何回見ても新しい発見があるのは楽しいですね。

岡本:夜景の中に線が入っているのはオスプレイなんですけど、僕は親切心がないので、そのことは書いていません。綺麗だって言って買っていただきましたが、実は…っていう思惑があります。そのことを知らずに、オスプレイがおしゃれなリビングに飾られているかと思うとちょっとシュールですよね。
基地というものは基本的に沖縄にいらないものだと思うんですけど、今すぐは無くなりません、それがあることで色々な物語が生まれて来たのも事実なんです。

須藤:沖縄の人の意思ではなくて、どう共存しようかと考えているんでしょうね。そこには悲しいことだけじゃなくて、楽しいこともあるはずですよね。

岡本:そうですね、沖縄に対してもアメリカに対しても距離感を保ち続ける。これは唯一大切にしていることかもしれません。
いま沖縄は大きく動いていますが、基本的には沖縄のことは沖縄の人々が決めるべきことだと思っています。
僕が撮る写真は受け手がどう感じようと自由。言い切らない、余白を残すというか、そういうのが好きです。そうやって外部の眼にしか見えないものを撮ること。それが大切です。



Q.今後のヴィジョンをお聞きしても良いですか?

岡本:『アメリカの夜』に続く、3冊目を撮り始めています。また沖縄で。

後藤:ぜひお仕事でご一緒できたらいいですよね。やりたいことがたくさんあります。

須藤:沖縄の地元を取材してみたいですよね。女の子が好きな沖縄のアメリカっていうのも面白いかもしれません。

沖縄にあるアメリカを撮り続ける岡本さん、米軍ハウスを取り上げた『FLAT HOUSE LIFE1+2』の復刊を企画し、自身も米軍ハウスに住む後藤さん、そしてアメリカのカルチャーを発信する『anna magazine』をつくる須藤。それぞれが好きなアメリカを仕事として取り上げる時、共通していたのがテーマとの距離感の話だ。好きだからこそ一定の距離を保つことが、ずっと好きなことを仕事にする上で大切なのかもしれない。

やっぱりアメリカは面白い。あなたはどんなアメリカが好きですか?

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