エアコン

Emotion 第22話

エアコン

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.15

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第22話

カイト「じゃあ」

僕「じゃあ、気をつけて」

彼は僕が見送っている事に気づかずに、こちらを振り返ることもせずただ真っ直ぐに北へ進んだ。国道134号線の中に彼が消えて行くまで僕は見送った。ずっとずっと先の方へ彼が消えて見えなくなると、少し深呼吸をしてペダルを漕いだ。進む先は我が家。

気のせいだろうか、先程こちらへやって来た時よりも帰り道の方が早く感じた。罪悪感はなかった。僕の足と心はとても軽やかだ。ペダルを踏むたびに不安から遠ざかって行った。

幾度もトンネルや坂道を登り、真っ暗闇の道を過ぎるとようやく都会の気配を感じ始めた。特急列車の車窓から一瞬目に止まった各駅しか停まらない駅や、首都高の高架下をゆっくりと走り我が家に到着。

不安に感じていた、玄関の鍵は閉まっていたしガスの元栓もちゃんと閉じていた。給湯器のスイッチも消してあるし窓の鍵も掛かっていた。不安なことはなにもなかった。わかっていたけれど帰る理由が欲しかったのだ。

シャワーを浴びて、ベッドに座り少し深呼吸をした。目の前のパソコンを開きポチポチとブログを書く。ふと、カイトの事が頭に浮かび携帯を手に取るが連絡はしなかった。なんとなく彼は僕が帰った事に気付いていると思ったからだ。

明日、目が覚めたらエアコンのかかるこの部屋の中で何もしない自分を悔やみ、炎天下の下ペダルを漕ぐカイトを羨むのだろう。


続く



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