アサガオの運命はひょんなことから大富豪。

えもーしょん 小学生篇 #21

アサガオの運命はひょんなことから大富豪。

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.03.23

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#21 「アサガオの運命はひょんなことから大富豪」
(2003〜2010/カイト・小学生)

♪キーンコーンカーンコーン♫

まだ、聴き慣れない

学校のチャイムに圧迫感を感じていた。

1年2組 出席番号28番。

の、ボク。

ベランダに並べた、アサガオに

ペットボトルを改造したジョウロで

朝、水やりをするのが日課だ。

「これ、育ててどうするんだよ」

と、誰もがそう思いながらも

毎朝、水やりをして育てていた。

そして

慣れない、学校生活をうまくこなしていた。

ある日

授業参観に、来たママが

ベランダのアサガオを見るや否や

「持って帰らないでね」

と、ぼそっと言った。

どうやら、安っぽいプラスチック製の青い

鉢が気に入らないらしい…。

一学期が、終わり

はじめての夏休みを迎える終業式の日。

ボクは珍しく

学校に残っていた。

なぜなら、夏休みに入る前に

ベランダで育てたアサガオを

持って帰らなければならないからだ。

しかし、このまま

持って帰れば

「持って帰ってこないで」って言ったじゃん。

と、言われる事が

想像がつく。

育て方は、教わったが

いつまで、育てればいいのか

育った後の教わり方などは

何一つ、教わっていない。

恐らく、先生も知らないだろう。

夏休み中も、毎朝水やりをすると思うと

気が遠くなる…。

選択肢は、3つ

1、保健室のおばちゃんにプレゼントする。

2、どこかに穴を掘って学校に植え替える。

3、ベランダに置いて帰る。

じりじりと、照りつく太陽と

にらめっこするかのように、教室の前の

ベランダで、1人座り込み

考えていた。

すると、ザッザッザッ

誰かが、遠くからこちらに歩いてくる。

背が高く、いつも綺麗な長い靴下を

履いている、同じクラスの

さやちゃんだ。

「どうしたの? 暑くないの?」

と、ベランダで座り込むボクを見て

さやちゃんは言った。

「暑い、めっちゃ、暑い」

「早く帰ればいいじゃん」

「帰りたいけど、このアサガオが」

「アサガオ、重いの?」

「持って帰ったら怒られるんだ」

「………笑………笑」

「じゃあ、わたしにちょうだい」

「アサガオ!?」

「2個も何に使うの?」

「お庭に飾るよ」

「ありがとぅ…」

ボクとさやちゃんは

夏休みの鬼のような宿題と

ロッカーに溜まっていた

私物や、図工で作った作品を

リュックにパンパンになるまで詰め込み

体操服の入った巾着を

カバンの横にぶら下げ

安っぽい、プラスチックの鉢に入った

アサガオを抱えて

さやちゃんのお家まで歩いた。

途中、「アイス食べたい〜!」

「スイカ食べたい〜!」

「冷たいジュース飲みたいー!」

と、食べたい飲みたいを話していたが

ふと

「暑いー!」

と、ボクが言ってしまった。

「暑いー!」

の、あとは必ず

「暑いねー」

と、なる

そして

「あちー」

と、なり

お互い、心の中で

「ね」と阿吽の会話が生まれる。

「暑いー」のせいで

家に着くまでの最後の5分間

ボクらは、一言も話すことはなかった。

「着いたー!」

さやちゃんが、清々しく言った

「ここ、さやちゃんのお家!?」

「そうだよ?」

と、そこは

ボクの家から、歩いて3分ほどのところにある

とんでもない、豪邸だった。

玄関には5つもの、防犯カメラがあり。

ボクは、生まれて初めて

個人宅に防犯カメラが付いているのを

見たのはこの豪邸だった。

どんな人が住んでいるのか

ずっと、気になっていたが

まさか、さやちゃんなんて…。

さやちゃんは、インターホンを押して

「ただいまー!」と大きな声で言った。

すると、大きな鉄格子の門が開き

中へ入る。

床は、全部なんとか石で出来ていて

そして、とってもいい匂いがした。

さやちゃんは

「アサガオ、そこに置いといて!」

「少し待ってて!」

と、言って

どこかへ行ってしまった。

ボクは、一歩でも歩いて

何かにぶつかっては

パパとママに殺される。

と思い、文字通り1歩も。

いや、1センチも足を動かさぬよう

待っていた。

すると、さやちゃんが

何やら、可愛らしい

ピンク色の封筒を持って戻って来た。

「かいとくん、これ。はい」

「家に着いたら開けてね」

さやちゃんはそう言って

ボクは、さやちゃんと

なんか、映画に出てきそうな美人の

さやちゃんのママに感謝を伝え

とんでもなく大きな鉄格子の門をくぐり

帰路に就く。

続く


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