『Red Wing』のワークブーツ

Just One Thing #64

『Red Wing』のワークブーツ

橋本柊野(ショップスタッフ)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2024.10.18

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#64


お洒落な人は2つに分けられる。その人を思い浮かべてみて、記憶の限りいつも違う服装をしている人か、いつも同じ服装をしている人だ。相手の目を惹く、それでいて自分自身を表現したファッションスタイルに身を包んでいる人は、大抵このどちらかに行き着く。

それで言えばショップスタッフの橋本柊野(ハシモトシュウヤ、以下シュウヤ)は前者の好例だろう。ヴィンテージもデザイナーズブランドも、トラディショナルな老舗ブランドも、ジャンルレスに着こなしつつ、いつもシュウヤのイメージにはまる装いで現れる。 



「王道の組み合せは、あまりやらないかな。むしろ、買い物をするときは“穴”を狙ってる。ラグジュアリー(ブランド)のコレクションとか見ていて、これ全然流行ってないけどいいんじゃないかなって思うポイントを取り入れるのとか」

柔和な表情と落ち着いた語り口だが、彼自身の中には揺らぎない芯があることを感じさせる。

「言ったら、“自己満”みたいな感じ。自分の中で納得できる組み合わせっていうか、『つじつまが合ってる』って思えるかどうかかな」

この日は『BODE』のシャツに、『BLESS』のパンツ、そして足元には『Red Wing』のワークブーツ『アイリッシュセッター』。ブーツは熟成されたウィスキーのようにかなり深みのあるブラウンに“育って”いる。経年変化が物語る通り、このブーツが他でもないシュウヤにとっての長い愛用品だ。



「買ったのが中3の時。地元の富山に『Foremost』っていう有名な古着屋があって、そこで買った。学ランにこれ履いて学校行って、『かっこいいの履いてんだぞ』って思いながら、ちょっとした優越感じゃないけど」

著名人や業界人も通うヴィンテージ古着の名店。とはいえ、所謂ワーク、ミリタリーといった昔ながらの古着スタイルは最近のシュウヤからすると少し意外だ。それこそ、ファッションの着こなしにおいて“王道”と言われているスタイルの一つだろう。



「最初はゴリゴリ。なんだろう、それこそアメリカがかっこいいな、みたいな。男くさいスタイルに憧れてて」

両親がセレクトショップを経営しているということもあり、ファッションへ興味を持つこと、親世代が通ってきたアメカジへ触れること自体はごく自然なことだったのかもしれない。当初はストレートデニムやネルシャツに合わせるスタイルが多かった。

「今はやっぱり、ちょっと普通の人がしない組み合わせを考えたくなる。そうするようになったのは、大学の終わりくらいだから結構最近だけど......。その頃からセレクトショップと古着屋でアルバイトするようになって。もちろん、今でも王道のものは普通に好きなんだけど、やっぱり、自分の色にしたいなって思う」

タイミングで言えば、ファッションが趣味から仕事に変わったタイミングと一致する。ファッションへと興味が大きく傾き、仕事としてファッションを考えるようになっていった20代前半だ。
実は、それより前の10代とは、シュウヤの生活は大きく変化している。

「それまで、基本的にずっとスポーツしてた。小学校の頃が空手で、中高がずっと野球部。学校だと制服だし、練習はユニフォームだから、私服を着る機会自体が全然なかったね」

興味を持ったタイミングがこのブーツを手にした10代半ばだとしたら、それからしばらくの間は実際にファッションを自分で選ぶ機会はそれほどなかった。ファッションへの入口が古着だったこともあり、大学入学と共に古着を買い漁る日々へと変わる。

「その時好きになったのが、ヒッピーっぽい、70年代のヴィンテージ。影響されて、その時代(70年代)の映画、めっちゃ見ていて。その延長でまたヒッピーとは文脈が違うけど、Sex Pistolsとかそういう、UKのカルチャーにも興味を持ってさ。ヒッピーとか、パンクとか、反骨精神がある、そういうものが、直感的にかっこいいなって思って」

ファッションからカウンターカルチャー。これは、ただ単に「おしゃれになってモテたい」とか「安く服が買えるから古着に手を出した」とか、そういう流れであればまず通らない興味関心だろう。



「漠然と、自由に憧れてたのかもしれない」

付け加えた。ここでいう“自由”に、冒頭シュウヤが言っていた「王道の組み合わせはあまりやらない」に繋がってくるように思う。自分なりのやり方と“自己満”を追究する、その自由がファッションにはある。それこそがスポーツとファッションの決定的な違いだ。

スポーツには明確に勝ち負けがある。速く走る、高く飛ぶ、先に当てる、何かピンポイントの基準のもとに相手を上回るための過程を磨き上げることがスポーツを続けていくことだ。一方で、ファッションには勝ち負けがない。少なくとも、点数化されているわけではないから絶対的な基準が存在しない。だからこそ、目指す気場所を決めるのは個人に委ねられている自由がある。

彼の場合は、それが自分の店をやること。

「なんか街歩いててもたまにいるじゃん。こいつ絶対この店で買ってる、ってわかる人。そういう人が増えてくれたら嬉しいよね」

シュウヤ自身、あまり他人に干渉するタイプではない。ものすごく積極的に初対面の人に話しかけるタイプでもないし、初めて会ったら物静かな印象を受けるかもしれない。ただ、そういう人がやる店だからこそ、彼自身の好きなものやスタイルがファッションで表現されるだろう。

履き込まれたブーツは、今のシュウヤが選んだものではない。ただ、それをどう履くかにおいて、彼自身の変化や、見せたい彼自身の姿が現れている。ソールはすでに一度交換しているというが、全体的に手入れが行き届いていた。これからも履くのだろう。明日は何を履こうか、何を着ようか、そんなことを考えながらこの日帰宅した後も磨いているのかもしれない。







橋本柊野(ショップスタッフ)
富山県出身。現在は都内のセレクトショップで働いている。デザイナーズブランドから古着まで好きな服の幅は広く、将来的に自身のショップをやることが目標とのこと。アートや音楽への関心も高く、休日はライブや展示へ足を運ぶことも多い。
Instagram:@shuya_0352

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