Just One Thing #61
The Rolling StonesのバンドTシャツ
Nanahagu(専門学校生)
Contributed by ivy -Yohei Aikawa-
People / 2024.08.15
絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」
#61
「友だちとバンド始めることになって、さっき練習してきたところです。とりあえずブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)やろうって」
土砂降りの夕方、家路を急ぐ人がバスに並ぶ高円寺駅前で待ち合わせていた。昨年11月から高円寺で一人暮らしを始めたというNanahagu(以下、ナナハ)だ。服飾専門学校に通いながら音楽スタジオでアルバイトをしている。この日着ていたのはThe Rolling StonesのツアーTシャツだった。ピチピチのタイトなサイズ感でミニスカートや『Getta Grip』のブーツと合わせた着こなし。
「スタジオのアルバイトで、色々な音楽好きの人と繋がって、ちょうどStonesの話が出た時に聴き直そうかなって。一番好きなのはこのアルバムなんですけど(75年作の『Metamorphosis』)、レコード屋でアルバイトしていたとき、店主にこれが好きって言ったら驚かれました(笑)。1曲目の“Out Of Time”から2曲目へ行くこの流れが好きなんですよね」
音楽への入りは高校1年生の時。andymoriやフィッシュマンズといった90年代~00年代の日本のバンドを聴き漁り、小山田荘平のソロライブへ足繁く通っていた。横浜市内で生まれ育ち、都内の学校へ通っている彼女がわざわざ高円寺へ引っ越してきたのは、そんな大好きな音楽に登場する街で暮らしてみたいという思いが大きかったのだろう。
「親がフリッパーズギターとかが好きで、ちっちゃいころから音楽には触れていたんです。それこそ、お母さんの影響でおしゃれをすることもずっと当たり前のことだったんですけど、高校生くらいからロックを聴くようになって、自分の好きな音楽をファッションでも表現したいなって思うようになって。最初はフィッシュマンズを聴いて、ちょっと民族っぽい服とか、レゲエを自分なりにイメージしてみたりとか」
服を着ることも、音楽を聴くことも、何か大きなきっかけがあるというよりもごく自然と、当たり前のこととしてやっていた。もちろん彼女が自ら選んで聴いていることは間違いないが、何かを食べたり、身近な誰かと話をしたり、そういう当たり前の日常の一部なのかもしれない。
そんな彼女が高校を卒業し、ファッションの専門学校へと進学したとき、実はそれほど何をするか明確に決まっていたわけではないらしい。
「勉強も苦手だったし、進学は無理かなって思って。 普通に大学受験するよりも、好きなこと、生かせるところってなったら行くかなって思って行ったんですけど......。入ったら入ったでどんどんやりたいことが変わっちゃいました。スタイリングとかファッションの見せ方を学ぶコースに入って作品撮りをしたり、チームを組んでビジュアル制作の課題をやったりするんですけど、ファッションだけじゃ物足りなくなっちゃった。撮影ロケーションもいろいろな場所から選びたいし、写真もこだわりたいなって思うようになって」
ここまでの話を聞いていると、ナナハがそう思うのも無理はないだろう。彼女の場合、どこかのブランドのコレクションを見たり、特定のデザイナーに傾倒したり、ファッションを入り口にしてファッションに興味を持った人ではない。むしろ、ファッションとは全く別のところにある日常のインスピレーションのアウトプットが“たまたま”ファッションだったという方が近いだろう。そんな中で四六時中、服や生地に囲まれてファッションの専門知識を身に着けるための日々を過ごしていたら、いつの間にか彼女に刺激をもたらす対象物が周囲に見当たらなくなっていた、ということだ。
「だから今、一瞬でも生きてる感覚を忘れるくらいの感覚になることが夢なんです」
死に物狂いともいえるだろうか。これまで彼女がごく当たり前のこととしてやっていた好きな服を着ることは、日常の延長戦だとしたら、そこからもう少し進んだ未知なることを試してみたいと思っているという。一種の好奇心、もはや冒険心にも近い。
卒業後のことについて、ナナハはこう語る。
「今興味があるのは、ガラス職人。一番は、単純にきれいだなあと思ってガラスが好きだから。あとは、なんでもいいから物作りがしたいって思っています。『物は嘘つかない』って思っていて、で、自分でカメラを持ち歩いて写真を撮るときはやっぱり撮るんですよ。日常にある看板とか、鏡とか、窓ガラスとか、そういう所に光が反射しているのが綺麗で。これは私の美学なんですけど、そういう、すごく光が輝いて見えるきれいなものを自分で作ってみたいなって」
日常の中で彼女が好きな映画や音楽といったカルチャーと彼女自身が生み出したい、作り出したいものは別物だ。それはナナハの中でも自覚している。
「もちろん私の今を作ってくれているのはカルチャーなんですけど。それは、私を作ってるものであって、私が作るものでも、私そのものでもないなっていことに最近気づいてるんです。だから確かに、うん。音楽好きだけど、やろうってあんまり思わないかも。誰かと同じものができても面白くないし......。たぶん、特定の何かをしたいというより、“何者かになりたい”っていう思いが強いのかも」
何者かになりたい。すでにナナハ自身が“何者か”であるはずだが、言い換えれば何者であるかを証明するものを作りたいのかもしれない。それは誰かの真似では叶わないし、ナナハにしかできないモノやコトでないといけない。
だから、彼女が来ている服はたとえ音楽からインスピレーションを受けていたとしても、決してスタイルを“真似”しているようには見えない。たとえばThe Rolling StonesのツアーTシャツだって、街でよく見る彼女と同世代の女の子とも明らかに違えば、映画に出てくる60年代イギリスのグルーピーたちが着ている衣装とも全く違う。〇〇系みたいなものに縛られず、彼女だけの解釈がそのままその日の服装に出ている。
「このTシャツはメルカリで買いました。アメリカ企画で出していたモデルみたいで、キッズサイズなんです。ぴちぴちで着たかったんで」
耳から入ってきた音をそのまま自身の姿にすること。それがナナハにとってのファッションといえる。自らを「飽き性」と語り、衝動的に動き、やりたいことや好きなものが頻繁に変わる彼女にとっても、その点は変わらないはずだ。
Nanahagu(専門学校生)
神奈川県横浜市出身。ファッション専門学校に通いながら、音楽スタジオやレコードショップでアルバイトをしている。オールドスクールなロックや90年代の邦楽に浸かった10代を送り、現在は高円寺に在住。
Instagram:@wgmimp
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ivy -Yohei Aikawa-
物書き。メガネのZINE『○○メガネ』編集長。ヒトやモノが持つスタイル、言葉にならないちょっとした違和感、そういうものを形にするため、文章を綴っています。いつもメガネをかけているメガネ愛好家ですが、度は入っておりません。