えもーしょん

えもーしょん 大人篇 #35

えもーしょん

2016~/カイト・大人

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.06.12

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#35
「えもーしょん」
(2016~/カイト・大人)

あと、1話が進まない。

時刻は16:21。

締め切りまで、2時間と50分。

コーヒーを飲んでみるも

目が覚めない…。

眠くはないが、眠ってしまいそう。

そうだ、思い出した。

最近は、めっぽう眠い。

おかしいほど、眠い。

なぜだろう…。

食事のせいか、季節のせいか、ただの勘違いか

眠い、眠すぎる。

みんなは、なにをしているのだろうか。

スケボーが出来ない道路。

ランニングが出来ない道路。

友達と話も出来ない道路で

みんなは、毎日なにをしているのだろうか。

ボクは、正直

ウイルスがどうとか、政府がどうとか

対応がどうとか、そういうのは

本当に、どうでもいい。

ボクの好きな君の、あの人の、みんなの

大切なものが、ボクの大切な物で

君の大切な物もそうであったら

きっと、ボクらはどんな事があっても

大丈夫な気がするね。

と、いつかの夜に君と話した会話を

思い出した。

今編となると

今現在のボクを描く必要がある。と

今日の朝起きて、感じた。

いつものことだけど

それまでの原稿を白紙に戻して

最初から、書き始めるのだ。

失礼かもしれないけれど

この、ウイルスにボクは救われた。

社会活動が止まって

みんなが、1度歩くスピードを

緩めてくれたおかげで、見えなかった

隙間も、見落としていた穴も

ボクは、何者なのか? じゃなくて

ボクはなにが出来るのか? って

物凄く、沢山考える時間を作れた。

えもーしょんは、ボクのアイデンティティだ。

これから、形が変わったり

読者が、変わるとしても

ボクにとって、大切な物に

変わりはない。

1000本ノックは終わらない。

たとえ、えもーしょんを作った。

編集長が倒れたとしても

ボクは、きっと素振りでも続けるだろう。

えもーしょんは、みんなの中にも

あるでしょう?

初めての彼女との、ドキドキのキスの

あの、唇が近づいて目をつぶる瞬間。や

ふと、教室の窓の外を見て黄昏れたあの瞬間。

その儚い、一瞬の瞬間が

えもーしょんなんです。

好きな人が、夕陽に光った

あの、茶色い綺麗な髪の

あの瞬間がえもーしょんなんです。

もしくは、あの瞬間が

ボクのアイデンティティなのかもしれない。

ここからは、えもーしょん。

思い立ってある日

君を連れて、バカンスへ行った。

ボクらの生活を壊したウイルスや社会の

慌ただしい人々と、街は

ここには、一切ない。

眩しい太陽に光る

君の笑顔を見たのは、いつぶりだろうか。

山を抜ける、この道を歩けば

懐かしい海の匂い。

変わらない景色と、変わらない君。

ボクの答えを探しに。

えもーしょん。


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