もう足音と共にジャラジャラと鍵の音は聞こえない、バイクのエンジンの音も

Emotion 第50話

もう足音と共にジャラジャラと鍵の音は聞こえない、バイクのエンジンの音も

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.10.03

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第50話

カイトが死んだ。カイトのお母さんが病院まで急いでやって来て、2人で何もわからないのでお茶を飲んだりおやつを食べて待っていただけだった。死に際に立ち合う事はなかった、何もわからないまま救急車で彼の顔を見て大丈夫な気がしていたし、病院内へ運ばれて受付の椅子でカイトのお母さんと座ってそれを伝えてしまった。扉が開いて少し風格のある先生がこちらにやって来たとき、少し慣れたような何とも言えない暗い顔をしていて、嫌な予感がした。

カイトのお母さんが呼ばれて先生の前で泣いている姿を見て、胸に大きな穴が空いて鈍い風が通ったように感じた。ただの壁を眺めているだけなのに涙が流れた。今すぐにうずくまって布団に包まり泣き崩れたかったが、ここが病院でビニール張りの椅子の上で座る事以外の選択肢がなくて助かった。座っている以上、溢れ出る涙に限界があると感じたからだ。そう簡単に止まることはないが、視界がなくなるほどの涙は出ないとわかった。そうやって意識を変な方向へズラして深い傷を負わないようにしているのかもしれない。遠くで泣き崩れたカイトのお母さんを迎えに行かないといけないが、今は先生に任せた。先生も他に患者がいるだろうから本当ならば僕が行かなければならないが。今は立てない。壁を見ることしか僕には出来ない。動こうとすると、彼との記憶が湧き出てくるしカイトのお母さんに近づけば近づくほど自分もただでは済まないとわかっているからだ。

先生と看護師さんに支えられて、カイトのお母さんがこちらにやって来てそこからはほとんど映像を見ているようだった。

数日後、カイトのお母さんに呼ばれて一緒にお葬式の準備をすることになった。準備を始める前に、なぜカイトが死んでしまったのか話してくれた。どうやら、エスカレーターで滑って転んで頭を打った事が原因ではないらしい。そして、そもそもエスカレーターでは滑ってもいなかったらしい。カイトはエスカレーターに乗って、たまたまそのとき頭の中の血管が切れてしまったようだ。これで僕が数日間悩んでいた事がクリアになった。よく思い出して見ると、ドンッと鈍い音が聞こえる寸前まですぐ後ろにカイトはいたし、滑るような足場の位置ではなかったし普通に何かを話していたように感じていたからだ。カイトのお母さんは、バイクの運転中ではなくてよかったと言った。そしてオワリが隣にずっといてくれてよかった。と

お葬式の準備が終わり、カイトが乗っていたバイクを形見として譲り受けることになった。すっきりはしないが、綺麗な夕陽を見てお葬式の前に2人で観る予定だった映画を観ることにした。

ミステリーではあるけれど、普通にホラー映画だったし犯人は最初からバレバレだし。最後も結局幽霊はいるのかいないのかハッキリせず、信じるかは人それぞれ。みたいな終わり方で何だよ!!! と突っ込んでしまった。名探偵なら最後までハッキリさせて欲しかったよ。。と帰りの電車で悶々としながら帰宅した。

家に帰り、クローゼットの奥の棚にしまってあったカイトのハワイ土産の花の首飾りをデスクの前に飾った。



最後まで読んで頂きありがとうございました。
※この物語はフィクションです。登場する場所などは一切関係ありません。



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