THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE / UNKNOWN STORY-#4
マーケットで出合った印象深きものたち
Photo & Text : ACME Furniture
People / 2018.10.24
昨年出版された『THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE』は、そんなACME Furnitureがこれまでに買い付けてきたアイテムがずらりと並んだブランドの歴史を感じることができる一冊だ。
この連載では本誌では語られなかった、アイテムのバックストーリーを紹介していく。
第四回目は、買い付けの中で出合った今も忘れえぬ家具たちのエピソード。
National Cash Register
マーケット会場で見つけたこのゴージャスな成り立ちのレジスターに一目惚れをした。想定重量30kg以上はあると推測されるこのレジスターを台車に乗せて200m以上の悪路を引きながら歩いたことで、首や肩に大きな疲労が残った。「骨の折れる仕事」とはまさにこの事だと実感した。必死の思いでトラックに荷積みしたレジスターを改めて見返すと、真鍮製の美しい装飾パーツが全体に施されていて劣化箇所も少なく、良いコンディションが保たれている。数字が記されたボタンを押し、側面のハンドルを一周回すと金銭を収納する抽斗が「チーン」という音と共に手前に飛び出してくる。アナログではあるが本来の機能性も損なわれていない。このレジは1910年代にオハイオ州のメーカーによって製造され、主にハイエンドなショップのレジカウンター上で活躍してきたプロダクトのようだ。社名である「ナショナル・キャッシュ・レジスター・カンパニー(NCR)」は、創業当時このようなクラシックなレジを製造することから始まり、現代では現金自動預け払い機(ATM)や、小売店舗で活躍するPOSシステムを開発するなど長い歴史の中で大きな成長を遂げた企業である。
Slave Trade Bracelet
とあるマーケットのブース内に無造作に並べられたブロンズ素材で作られた謎のリング。アフリカ出身だというディーラーのおじさんに話を聞くと、これは昔アフリカで通貨として使われていた物だという。珍しいのでひとつ仕入れてみることにした。特製のステイで自立式にさせることにより、不思議な雰囲気を醸し出すスタンドオブジェが出来上がった。この謎の通貨についてさらに深掘りして調べてみると新たな事実が分かった。これは通貨ではなく、1800年代後期の南部アメリカで黒人奴隷が腕に付けていたブレスレットであったようだ。当時は奴隷の販売価値を判断する基準として腕に目印として装着させていた。アメリカ映画では何度か黒人奴隷市場のワンシーンを見たことがあるが、改めて当時のリアルな光景を想像すると背筋が凍りつくような思いになる。しかしこれも人類が歩んできた真実の歴史の一幕なのだと再認識した。
Shark Ornament
これもマーケット会場で出合ったものである。ハンドメイドで作られた全長2mあるサメのオブジェは無造作に商品群の中にまみれ、まるで浜辺に打ち上げられたまま放置されているかのように寂しげな目をしてこちらを見つめている。ディーラーの話を聞くことによると、このサメはマンハッタンビーチに以前実在したシーフードレストランのアイコン的存在として店内の天井に飾られていたものらしい。長い年月レストランを見守り続けてきたが、閉店と共にその役割を終えたのだ。色々な事を考えながらこのサメと見つめ合っていると、少し寂しい気持ちになってきたので仕入れることにした。無骨な成り立ちで荒削りな作りではあるが、圧倒的な存在感を持つこのサメがまた何処かのお店のアイコン的存在として活躍出来ることを祈りたい。
Baby Carriage
「何か風変わりなものを見つけたい」。そんな一心でマーケット会場を歩いている時に出会ったこのベビーカート。本体はラタン素材で綺麗な球体形に編み込まれており、随所に施された幾何学模様がとても魅力的だ。鉄のフラットバーで組まれた足元のサスペンションはアナログな構造ではあるが十分に振動を吸収させる機能性が備わっている。このプロダクトは40年代に製造されたアメリカの老舗家具メーカー「Heywood Wakefield」社のものだという。個人的にも好きな家具メーカーのひとつである同社がその当時は乳母車を製造していたという事を初めて知った。空間演出のアクセントアイテムとして使うことを提案としたプロユーザー向けの商品として仕入れをした。日本到着後直ちに店頭展示を行ったが実際の顧客様の反応はというと……。どこの誰が使ったか分からない乳母車は少々不気味がられた。一般ユーザーには完全に不向きな商品であると後から反省した仕入れであった。
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ACME Furnitureのオリジンに迫る!(前編)
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Kenichiro Tanaka
2004年にACME Furnitureに入社。ヴィンテージ家具のリペア職人、バイヤー、商品開発担当を経て、現在はディレクターとしてブランド運営を行う。