What is your color?
「個性」ってなんだ?
Photo&Text:阿部はるか
People / 2022.12.16
Luke magazine special contents #17
今、僕たちが考える「個性」のこと。
多様な価値観に触れる機会が多い今、「個性」という言葉の捉え方もさまざまだ。自分を奮起させるポジティブな言葉にもなれば、時に自分を惑わせる言葉にもなる。今回は服飾専門学校で日々自分らしさと格闘する17名の学生が、「個性」について改めて考えてみた。10代と20代のはざまに生きる学生たちの素直な言葉たち。「個性」ってなんだっけ?
My knees fasteners
両膝のファスナー
平等な世界が謳われる現代、それぞれの多様な在り方が尊重されるようになった。
一人一人の「個性」が大切にされる中で、「個性」とはなにか、ふと考えてみた。
私の両膝には大きな手術痕がある。
これは高校生の頃に刻まれたものだ。
高校一年の秋、大会中に全治一年の大怪我をした。
手術を終え、ぐるぐる巻きの包帯を解いた足には、ドラマでしか見たことのなかったような大きな手術痕が刻まれていた。
だが、当時の私はそんなキズアトなど全く気にも止めることもなくリハビリに励んだ。
大きなキズアトは自分の努力を証明する勲章だとさえ思っていたのだ。
そんな部活漬けの青春時代を終え、進学と同時に上京した私は電車の中で強い視線を感じた。
向かいの席に座ったおばあさんが私の膝を凝視していたのだ。
両足に刻まれたキズアト。
気にせず履いていたミニスカートはその日を境に手にとることを躊躇するようになった。
一つ、また一つと増えていくキズアトへの注目が怖くなり、いつしか私は膝が隠れるボトムしか履かなくなった。
そんな生活が日常になった頃、モデルの仕事を始めた。
衣装にはこれまで避けてきたミニスカートやワンピースがたくさんある。
「私、両膝に手術痕があるんです。それでもいいですか?」
そう伝えた私にプロデューサーは
「気にしなくていいよ!いまどき加工できるし。逆に大丈夫?」
と言ってくれた。
実際に掲載されたデータにははっきりと手術痕が残されていた。
モデルのデータ
それでもそんなデータを見た人にキズアトについて言及する人なんて、一人もいなかった。
今でも私はSNSに写真を載せる時、必ずキズアトを消す。
けれど、もう気にせずミニ丈のお洋服を着れるようになった。
隠すことも悪いことではないし、堂々と歩くことも悪いことではない。
その日の気分でキズは顔を出したり隠れたりする。
晴れと雨を繰り返す空のように、気まぐれに。
「個性」はよく魅せることではなく、自分のいちばん息のしやすい形でありのままでいられることなのだと考える。
理想のかたちに変えることも、隠すことも、見せることも、その人の自由で、それがあたりまえになる世界が本当の「個性」が尊重された世界なのかな、と考えた。
一人一人、息のしやすい形が異なるから、違いに気づいて苦しくなったり、難しく考えてしまったりもする。でも、そんな違いすらも楽しんでしまえば、この世界はきっともっと明るくなるのだろう。
そんなことを、この青春を刻んだキズアトを通して感じた。
今の私は「キズアトも含めて、私である」と笑顔で言える。
これは私の「個性」で、青春を閉じ込めた世界に一つのファスナーだ。
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阿部はるか
2002年生まれ、北海道出身。 日本、フィリピン、スペイン、中国の4か国混血。 趣味は美味しいご飯屋さんを巡ること。