お決まりの『ボロボロなシューズ』で。

MY FAVORITE MOVIE #5

お決まりの『ボロボロなシューズ』で。

illustration:dokkoi
Photo & Text:MFM CULB

People / 2023.06.14

「映画を」楽しむ、じゃなくて「映画と」楽しみたい。別に映画に詳しくなくたってお気に入りの1本があったらそれでいいじゃん。「僕」と「誰か」が繋がって語られる、映画との日常。

僕が高校生だった頃憧れた、映画『プリティ・イン・ピンク』のダッキー。
お気に入りの映画とキャラクターのことを久しぶりに思い出したきっかけは、Instagramで偶然発見したdokkoiさんのイラストだった。今回はダッキーの魅力と最高な出会いのお話。

NOW SHOWING
【プリティ・イン・ピンク】





僕のお気に入り映画のひとつ『プリティ・イン・ピンク』
当時高校生だった僕は一瞬で“彼”に憧れた。そのキャラクターはダッキー。おちゃらけた姿、そしてどこからエネルギーが湧いてくるのか不思議に思うほど自信家な彼は、相手を呆れさるほどの“しつこい”を持ち合わせている。そんなダッキーは幼馴染のアンディに恋をしていて、“しつこい”アプローチを仕掛けるのだ。
ダッキーは彼女の働くレコード屋に押しかけ、Otis Reddingの「Try A Little Tenderness」に合わせて店内を駆け巡りながらリップシンクをしてしまうなど、本当に変わった奴(もちろんこれは褒め言葉)だし、アプローチの仕方を完全に間違えている気がするのは僕の気のせいだろうか。しかし、このシーンは僕の大のお気に入りで、今までに何度観たかわからないほど……。

『プリティ・イン・ピンク』は当時から大人気だったジョン・ヒューズ監督の80年代の青春スクール映画。スクールものといえばお決まりでヒロインのお相手が存在するよね! しかし残念ながらダッキーは“アンディのお相手”ではない。アンディのお相手は別にいるんだけど、ダッキーはそれ以上のインパクトで僕を射止めてきたということだ。

これまた意中のお相手、アンディもめちゃくちゃ可愛い。ジョン・ヒューズ監督作品を筆頭に当時大人気だったモリー・リングウォルドが演じているんだけど、公開時は熱が高まりすぎて彼女を真似る女の子たちが沢山いたそうだ。しかも総称まであって、“リングレッツ”と呼ばれていたみたい!! 確かに本人はもちろん、衣装もめちゃくちゃ可愛いから今の時代でもこんな子いたらいいな……なんて思う僕。リングレッツ、どこかに現れないかなぁ。

まぁそんな話はこれくらいにして。

いつも通り通勤中、山手線の車内にてInstagramをチェックしていると、突然!! 最高なイラストが流れてきた。もう降りなきゃいけないのに、すぐにチェックせざるを得ないほどに僕の気分は上がってしまい、結果一回ホームで止まってチェック。そのイラストは大好きな『プリティ・イン・ピンク』のイラストだったから。

「!?!?!? 何これ!?」

僕はすぐにイラストを発信していたアカウントをチェック。すると好みドンピシャなアカウントに辿り着いた。
dokkoiというネームで活動する彼。Instagramのポストを覗いてみると、どれもキャッチーにモチーフや人物が描かれている。独特な色味とタッチで描かれたイラストは“単調”という言葉とはかけ離れていて、ビビットなのにケバケバしくない、ゆる〜いハッピーオーラを放っていた。



さらさら描いているというよりは、小さい子が色鉛筆やクレヨンを力いっぱいに紙に当て、自由に描いている感じ? 僕は美術作家、評論家でもなければ絵が得意というわけでもないけど、なんとなく彼の作品には「心地よい“mood”がある」っていう言葉がピッタリな気がした。線をそのまま残すような絵のタッチに特徴があるのかわからないけど、絵に躍動感があって、あたたかみがあって……。簡単にまとめると「一瞬で虜になった」ということだ!!

そして、この嬉しい出会いを祝うかのように、個展の情報もアップされていた。

その名も
『Dokkoi dokko DOKKOI SHOW at ギャラリー月極』

今回が初の個展となるそうで5年間描き続けていた作品たちと新作が並び、期間も2週間開催されるとのこと。その展示で『プリティ・イン・ピンク』の作品も見ることができるというので、僕にとっては行く選択肢以外ないようなものだった。

そんな運命的出会いを果たして盛り上がっている時間も束の間、時刻は出勤ギリギリ。一度昂った気持ちを忘れて一心不乱にダッシュ!!!




僕は家に帰宅するとすぐにDVDをピックし、久しぶりの鑑賞をする。もちろん、いつもと変わらず最初から最後まで通しで鑑賞。



ダッキーに憧れる理由は、冒頭に話した彼の自由奔放な姿だけではない。彼の「不器用な優しさ」、実はそこにいちばん憧れている。僕も決して器用なタイプではないけど、彼のように不器用でも自分の直感に従った自分なりの優しさを身につけることができれば、無敵だと思ったからだ。

車なんて持っていないのに迎えに行くとチャリで現れたり、プロムではいつも通りダッキーお決まりの『ボロボロなシューズ』で登場して、落ち込んでいる彼女を元気付けたり。気の使える優しさではないけど、どの行動も大切な彼女を想ってのこと。そのなんとも言えない不器用な優しさを持った彼は、もちろん! この作品の中でいちばんかっこいい。

当時高校生だった僕は、彼のボロボロなシューズに憧れて先のとんがったシューズを購入。今では彼の靴と同じぐらいボロボロになりながら履き続けている。いつか会うはずの大切な人のためにね!!

再鑑賞して気持ちがすっかり『プリティ・イン・ピンク』一色の僕は、ついに念願の『Dokkoi dokko DOKKOI SHOW at ギャラリー月極』へと足を運んだ。

ギャラリーへと入ると、dokkoiさんご本人が丁寧に会場の作品について説明してくれたもんだから、僕は勢い余って「プリティ・イン・ピンクの作品を見に来て、購入したい」と彼に伝えると……なんと!!! 前日に売れてしまったとのこと(涙)
そこに作品はあるのに持ち帰れないむず痒さと、あと一歩だったことにかなり落ち込んだが、これはタイミングとしか言いようがないのでなんとか自分をなだめる。










気を取り直して一周してみると相当な作品数で、どれもキャッチーで愛らしい表情の作品ばかりだった。そして、僕に対しても気軽に接してくれて、いろんな作品について語ってくれる彼の姿を見ていると落ち込みなんてどうでも良くなってきた。

彼は自分の気になったものや、好きなものを組み合わせて作品へと昇華させ、新たなものへと繋げる。難しいことはあまり考えず、“好きだから” “気に入ったから” と素直な気持ちで描くからこそ、このハッピーオーラなのだろうか……。『物腰が柔らかくて、豊かで独創的な彼ピッタリの作品たち』といえば伝わりやすいかな?

そんな中、dokkoiさんに『プリティ・イン・ピンク』の作品についても少しお話が聞けることに! この作品は映画のジャケが描かれているのだけど、聞いてまさか! 作品自体が好きで描いたのではなく、dokkoiさんの好きなバンドPhoenix「Lisztomania」の“オフィシャルではない”ミュージックビデオがきっかけでこの作品を描いたそう。
会場で見せてくれた、その映像はジョン・ヒューズ作品の印象的なシーンをコラージュした動画だった。



つまり作品の前に立って一緒に見ていても、それぞれ考えていることや思い出していることは違う。僕の頭の中は『プリティ・イン・ピンク』の好きなワンシーンが流れているけど、dokkoiさんの頭の中はきっとこの曲が流れている。

アートはいろんな視点と、それぞれの背景があることで“面白い”が成り立つんだなと、改めて実感した瞬間だった。もしそうでなかったとしても、僕は素直に楽しめる、そんなアートがやっぱり好きだ。



結果、僕は『プリティ・イン・ピンク』の作品を買い逃してしまったけど、『プリティ・イン・ピンク』が好きだったことで素敵なアーティストdokkoiさんに出会うことができたし、最高な時間を過ごすことができた。やっぱり映画は僕の行きたい方向へと導いてくれる。

よく「靴は自分の行きたい場所へ連れて行ってくれる」というけど、それも本当にそうかもしれない。今日もダッキーに憧れてボロボロなシューズを履き、この場所へ来た。映画とダッキーが、僕の好きな場所へと連れて行ってくれたんだ。


dokkoiさんもダッキーもきっと同じ。好きなものを素直にいいと言える人、好きなものに素直になれる人はいちばん最高でクール。僕もそんな人にいちばん憧れる。


END


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【Profile】
dokkoi
2018年よりイラストレーターとしての活動をスタート。20年、スイスのINNEN BOOKSよりZINE『Unfinished Sympathy』をリリース。オーストラリアのPAM、ロンドンのAriesなどのブランドにグラフィックを提供。23年4月、月極ギャラリーにて初の個展を開催。自身のレーベルDOKKOI BEAT CLUBも運営。
Instagram:@dokkoi_active

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