どちらもいいし、どちらも正しい

海と街と誰かと、オワリのこと。#9

どちらもいいし、どちらも正しい

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.19

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


注文したゆきのサンドイッチランチと僕のコーヒーが届いた。ゆきはお腹が減っていたのか僕の漫画の話をうんうんと聞きながら、いつもより早くサンドイッチを食べた。僕はコーヒーをカップの半分くらい飲み、言わない方がいいとわかっていても、この質問をしてしまう。

僕「何かあった?」

ゆきの顔が明らかに曇った、眉毛は下がり耳に髪をかけた。

ーー大きく深呼吸をして

ゆき「オワリ、私たち別れよう」

ーーーー多分一瞬心臓が止まった、そしてすぐに大きく動き出した。なんとなくわかっていたような気がしていただけだった。なんとなくそんな気がする、と自分に少し保険をかけていただけだった。しかしそれは全然無意味だった、そんなことより何か言葉を発しないと。でも何を言う。「わかった」「どうして」この2択が頭に浮かぶ、「どうして」が素直な気持ちだ。けれど同時にそれを聞いたらゆきの返事次第ではここで泣き崩れる可能性が高い。
どうしよう、どうしたらいい。心の怪物が「ほらみろ」と笑う。

頭が真っ白になったが、ふと見上げるとゆきは泣いていた。
きっと彼女は成し遂げたいことが明確にあって、ぬるっと幸せな道か
自分にとって辛い選択をして色々捨てて進む道か選ばなければならなくて
分岐点に立ったとき、後者を選んだのだろう。長く付き合っていたしなんとなくその気持ちはわかる気がした。今目の前にいるゆきを見て、悲しい気持ちと同時に少し羨ましくもある。

僕「わかったよ、ゆき頑張ってね」

お会計を済ませて、喫茶店を出る。ゆきは泣いていたけど、僕は喫茶店を後にした。
これ以上一緒にいても何も変わらないと思ったし、今にも泣きそうだったから。

自転車を漕いで、大きな橋のたもとに着くと河口の方から海風が吹いて海の匂いがした。
海の匂いを感じて我慢していた涙が溢れた。橋を渡りながら海を見る。
このまま海の近くでずっと暮らしたい。だけどそれでいいのかって怪物は言う。でもプロになれなかった僕は都会に出て今までとは違う暮らしをしてみる方が正しいと思う、自分にとって何もわからない世界で辛いけど、強くなれと自分に言い聞かせる。
海を背にして自転車を漕ぐ。ゆきにも海にも別れを告げるように。

続く



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