夏が終わっちゃう

えもーしょん 中学生篇 #28

夏が終わっちゃう

2010〜2013/カイト・中学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.04.29

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#28 「夏が終わっちゃう」
(2010〜2013/カイト・中学生)

なんてことのない、幸せな夏を送っている。

熱帯夜なんていうが、夏なんだから

しょうがない。

19:00でも、海にはサーファーがいる。

夏だから。

窓が全開のリビングで

テレビをつける。

ちょうど、木原さんが

そらジローと、天気を伝えている。

「台風が近づいています」

と、木原さんが言った。

すると、キッチンから

「あ〜、もうそんな季節か」

と、換気扇の音共にパパの声が聞こえた。

そう。

そんな、季節なのだ。

終わらない、終わらないで欲しいと

心の、どこかで

思いながらも、全力で楽しんだ

この、夏も

ついに、終わりが見えて来たのだ。

台風が、近づくたびにヒヤヒヤするのは

きっと、家の前のヤシの木や

雨や、風の心配だけではなくて

台風がやってきて

去って行った後の、台風一過の

海で、空を見上げた時

なんだか、急に秋っぽく見えるのが

嫌だからだ。

学校の終業式

「明日から、夏休みです」

長い、校長先生のスピーチに

ピンポイントでその言葉に

誰もが反応した

その、瞬間から

ボクらは夏休みだった。

終わりなんて、考えもしなかった。

いつまで経っても、夏が終わらない。

そんな、気持ちだったのに。

台風は、空も海もボクらの心さえ

渦を巻き、夏を吸い取り

去っていくのだ。

上陸する台風は街を

沿岸を通過する台風は、海を

1つ、また1つとやってきては

秋にしていくのだ。

「道を歩けば春だったね」

さやちゃんが言った。

花火を見た、帰り道

ジメジメ、ベタベタ

しつこい夏が

だんだんと、姿を消したことに

ボクもさやちゃんも気がついていた。

「もう、秋なのかもね」

「もし、まだ夏だったら…」

「だったら…?」

「なんでもない!」

と、さやちゃんは笑って

家に帰る。

「大丈夫、ボクはまだ夏だから」


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