なりたい自分

Emotion 第29話

なりたい自分

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.28

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第29話

バイクの後ろにまたがり、少しバランスを取る。これが走り出したら思わずカイトにしがみついてしまうかもしれない。と思うと寒気がするがそこは安全優先の判断をしたいと思う。

カイト「はい」

と渡されたヘルメットには長い髪の毛が落ちていたが、見なかった事にしてヘルメットを被り、ヘルメット紐が短いので少し伸ばした。

僕「オッケー」

そう言うと、エンジンがかかり発進した。高速までは彼にしがみつかない。とバイクの腰あたりの部分を握りしめ腹筋に力を込めてなんとか耐えている。

渋谷の街を抜け、大きな道路を沢山の車と一緒に魚のように進む。やがて人混みが見えなくなりビルと電光掲示板が多くなって来た。

カイト「そろそろ高速入るけど、何か買う?」

僕「そうだね」

ETCの文字が少し先に見える。入り口の手前にコンビニを見つけてバイクを止める。

カイト「何買う?」

僕「バイクが走ってるときに水飲めないよね」

カイト「そうだね、なかなか厳しいと思うよ」

僕「だよね、かと言って今一気飲みしてトイレ行きたくなってもそれもそれで苦しいドライブだよね」

カイト「まぁ、トイレは最悪パーキングあるから大丈夫じゃない?」

僕「そうか、、」

カイト「コーヒーにしたら?」

僕「カイトは何にするの?」

カイト「俺はいつもコーヒーLサイズ」

勧められた通り、アイスコーヒーLサイズを一気飲みしてこれは確実にお腹を壊すと感じつつも何とかなるだろうと再びバイクに乗った。

カッチカッチとウィンカーを出して、車の流れが止まった時にバイクは走り出した。高速道路に入るとこれまで車の中から見ていた景色とは全く違う世界だった。
トラックが横を追い越す時は、まるで大きなクジラが通ったかのように風圧も感じた。それに沢山のバイクが僕を追い越す時はイワシの大群を見ているようだった。

こんなに無言でも良いのだろうかと、ふと何かを話さなければいけないと感じカイトに「なりたい自分になれた?」と聞いた。


続く



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