覚えているかい

えもーしょん 高校生篇 #56

覚えているかい

2013〜2016/カイト・高校生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.11.02

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#56
「覚えているかい」
(2013〜2016/カイト・高校生)

月曜日の原稿だというのにまったく思い浮かばない。

やばい。

今週は高校生編なので、今から約4年前の記憶を掻き漁る。

記憶の中の大きなイベントはいくらでもある。

例えば、誕生日、初めて出来た彼女、初めて振られた事、修学旅行、文化祭など

それを話したところであんまり面白くないし

正直、そういう記憶よりももっと普通の

道に落ちていたゴミの事の方が鮮明に覚えている。

が、なんだか今日は全然思い浮かばない。

話が変わるけど、この前代官山の本屋さんで

コーヒーを飲みながら本を読んでいると、珍しく

女の子から声をかけられた、23歳にして遂に! 逆ナン!?

と、久しぶりに春のドキドキを感じた。

「ねぇ!」

雰囲気が可愛い女の子はボクに向かって言いました

「!???」

とっさのことで固まるボク。

そんなボクを見て女の子は「変わらないねぇ」と

笑ってボクの向かいの席に図々しくも座った。

「可愛いから許すよ」と心の中で愚痴をポロリ。

「覚えてる? 元気?」

女の子は覚えてることを前提に元気? とボクに聞いてきたけど

まったく、誰だかわからない。

けど、こんな時にわからないではなく思い出せるよ。と振る舞った方が

紳士だと習っているので、正直に「今思い出すね」

と、女の子に伝えた。

女の子はボクに考える時間を与えぬほどボクとの思い出を

マシンガンのように続けた。

「あぁ! そんなこともあったね!」

いつのまにか、ボクは女の子のことを思い出した。

彼女は、唯一ボクが初めて付き合う前にチューした人だ。

ここで、チャラ男と思われたくないので少し言い訳するけど

ボクは決して遊び心とか下心なんてなかった。

いつ、どこで、どうして、そうなったのかはもう本当に思い出せないけど

もしかすると、彼女はなにか覚えているかもしれない。

今日、会わなければ一生思い出すことなんかなかったけど

思い出してしまったので、経緯まで聞かないと

ボクの中では納得がいかない。

ちょっとの勇気を出して、「そういえばチューしたよね」

と、彼女に言った。

彼女は、「はあああああ!?」

と、驚いたより怒ったようにびっくりしている。

地雷を踏むとはまさにこのこと。

そう、チューなんかしていない。

ボクは、ハッとした。

彼女はボクがチューしたくてしたくて

夢に出てきた天使だったんだ…。

気まずい3分が流れ

「またね」そう言って彼女は去って行った。


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