パソコン

Emotion 第27話

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Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.23

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第27話

カッチカッチカッチ。とメモ書きの棒線が車のハザードランプのように点滅している。この点滅は思考停止中。を表している。上司の貧乏ゆすりや指トントンと同じように、パソコンは僕にプレッシャーをかけているのだ。

こちらも負けじと睨み続けるが、お菓子にケーキコーヒーにアイス。とにかく口の中に入れて何かを噛み締める事でストレスから逃げている。ここで席を離れたら確実に寝てしまう、そして夕方になって締め切りまで3時間しかない。と焦っては誤字脱字のオンパレード。わかっていながら、メールで入稿。担当の方に迷惑をかけてしまうとわかっているので心の中でそっと謝る。公開前の確認をすると綺麗に誤字脱字は修正されており、メールでありがとう。と伝えたいけれどもccに編集長がいる事を忘れてはいけない。こちらも返信する際に心の中でありがとう。と言って1日を終えるのだ。

ようやくパソコンから解放された後は明日に備えて爆睡。

翌朝、年々起き上がる時にパッと開かなくなっていく目を心の力で開けるとパソコンが待っている。この時に少しでも心の中でネガティヴな感情を芽生えさせてしまうと瞬く間にまぶたは閉じて、気がつけばお昼過ぎになってしまうのだ。誰もいない部屋の中でおはようございます! と少し大きな声を出して、起き上がる。

ふと、彼女がいたら。どんな生活なのだろうか。と思ってはみたけれど、想像して現実に戻った時に寂しくなる気がしたのでやめた。僕の相棒は君だよね。と無理やりモチベーションを上げてパソコンを開く。

今日もしっかり点滅している棒線。タイトルを入力。一旦全部消して、もう一度入力。太文字か小文字か、どうでもいい事を考え気を紛らわせつつ頭の端っこの方で原稿を考える。

窓の外はプールへ向かう子供達が全力で自転車を漕いでいる。水着を入れたビニールバックの匂いがした気がした。


続く



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