えもーしょん 大人篇 #21
最後の大人編
2016~/カイト・大人
Contributed by Kaito Fukui
People / 2020.04.13
小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!
#21
「最後の大人編」
(2016~/カイト・大人)
家のバルコニーが暖かい。
愛犬のまい泉が、いつものように
椅子で寝ている。
たまにやって来る、カラスに吠えるが
見向きもしないカラス。
「お散歩行くよ」
彼にそう伝えると
嬉しそうに、尻尾を振ってやってくるのだ。
桜並木を歩く。
しかし、例年に比べ人はいない。
寂しそうに咲く桜と
嬉しそうな、葉桜。
ベンチに腰掛け
ふと、振り返る。
みんなに、伝えなければならないことが。
この、えもーしょんの終わりがやってきたのだ。
そう、ボクの花びらも散る時が来た。
葉桜として、みんなの中に
何か、残るものが1つでもあったら
毎日の頑張りに意味があった。と
そう思える。
桜は、花が咲けば
わんさか、人が寄ってくるが
咲かぬ11月は、誰も見向きもしない。
しかし
何もなかった、ボクに
編集長は、何か咲くかも。
きっと、そう思って
まだ、寒い冬の時期に
連載をくれたのだ。
咲いたかどうかはわからない。
ボクが、判断するのか
編集長が、判断するのか
みんなが、判断するのか。
何が、咲いたかも
わからない。
だから、これを読んでいる
あなたの心に何かが残ったら
ボクは、花が咲いたと思う事にする。
明確な、事や目に見える物は
すぐに忘れてしまう。
けれど、その時感じた
言葉にならない、何か。は
いつも、心に残るものだ。
さて、最後の大人編は何を話そうか。
プロサーファーを諦めたのは
高校2年生の、夏休みだった。
近くの、ポイントで
世界大会が行われたので
見に行った。
海外選手との、次元の違いと
生物的な、違いを感じた。
そして、家に帰り
ボクは、サーフィンを辞める事にした。
それまで、十数年も毎日
やってきたのに、終わりはあっけなかった
驚いたのは
とても、スッキリした事だ。
そもそも、サーフィンが好きではなかった。
というのも、試合が好きではなかった。
戦う意味がわからなかったからだ。
初めて、大会に出たのは
小学2年生の頃
その日から、なぜ?
仲良しのみんなと、戦うの?
負けて泣く、友達に
何と、声を掛けたらいいのかわからない。
負けたボクに気を使う
大人の目線が、冷たかった。
負けたボクを見る、両親の目も。
サッカーや、野球もそうだ
戦う姿を見て何を思う?
さっぱり、理解出来ない。
だから、ボクは向いていない。
ずっと、ずっと、ずっと
そう、思っていたが
家まで売って、環境の良い場所に
引越した両親にそんな事は
口が裂けても言えなかった。
「辞めます」とも言わずに
自然にフェードアウトしていった。
それから、職業を見つける為に
毎日、何冊も雑誌をただめくっていた。
最初は、フォトグラファーになろうと思い
テレビのカメラマンだった父に
色々、教わった。
しかし、ある日
フリー&イージーという
何年も昔の雑誌を屋根裏部屋で見つけ
ページをめくった。
そこに、ある
犬のページを見て
あぁ、ボクはこのカメラマンには
勝てない。
そうだ思った。
その写真は、犬の声がはっきり
聞こえるほど、しっかり
その犬の、性格や表情を
1枚の写真で納めていた。
しかも、その時代だ。
恐らく、フィルムだろう。
そして、消去法で
自分に出来ることが残ったのが
絵だった。
だから、今日だって絵を描いている。
好きもあるが
ボクには、これしかない。
いい意味でも、悪い意味でも
これしかない。そして
これがいいのだ。
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Kaito Fukui
1997年 東京都出身 幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。 あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。 美化されたり、湾曲、誇張される記憶を優しく繊細な浮遊感で!