えもーしょん 高校生篇 #11
お金ない病。
2013〜2016/カイト・高校生
Contributed by Kaito Fukui
People / 2020.02.10
小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!
#11
「お金ない病」
(2013〜2016/カイト・高校生)
「あ〜、彼女欲しい〜」
どこからか、そんな声が聞こえた。
高校に入学してから、1年。
2年生にもなれば、バイトを始め
今までよりも、行動範囲も広がり
使うお金も変わってくる。
バイト代を貯め、旅行へ行く人や
夢の国の、年間パスポートを買う人
毎月、洋服やスニーカーを買い集める人。
そんな、彼ら。
決まって、口を揃え言うセリフがあった。
「お金ない」だ。
彼らは常に、お金ない病だ。
例え、どんなに頑張って
お金を稼いだとしても
その時点から
その、瞬間でさえも
「お金ない」と口にするだろう。
決して
満たされることはないのだ。
しかし、そんな中にも
1人、面白い奴がいる。
彼の名前は、ケン。
彼は、毎日購買に並び
チョコチップメロンパンを買う。
その日も、彼は
購買に並んでいた。
4時間目が終わる、少し前。
つまらない、授業を抜けて
先に購買のおばちゃんと話していた。
「今日はポテトあるよ」
そう、話しかけてきたのは
いつもの、太った購買のおばちゃん
お前昨日、ポテトないの?
って言ったから買えよ。
と、おばちゃんの心の声が聞こえた気がした。
そんな視線を無視して
「肉まんないの?」
と、ボク
最近、テレビで
ある、検事のドラマが再放送で
流れている。
その、ドラマに出てくる
バーのマスター風の男は
お客が、これありますか?
そんな、視線を送ると
決まってこう言う
「あるよ」
ボクは、この言葉を言われたい。
ただ、その一心で
毎日、毎日
購買に行っては
ないものを探し、「〜ないの?」と
おばちゃんに、伝える。
おばちゃんは、決まってこう言う
「ないよ」
ちがーーーーーーう!と
心で叫ぶが、おばちゃんが
あの、ドラマを見ることがない限り
おばちゃんの口から
「あるよ」は聞けないだろう。
そうこうしていると、ケンがやって来た。
「かいと!チョコチップメロンパンある?」
階段を急いで降りながら、ボクに向かって
言った。
これは! と思い
渾身の低い声を準備して
「あるよ」
ボクはついに言ってしまった。
「なによ、怒ってるの?」
と、ケンが言った。
お前も、知らないんかい…。
「ごめん、ごめん」
不思議そうに、ボクを見た。
彼は、メロンパンを手に取り
おばちゃんに、お金を渡す。
すると、絶対こう言う。
「あー、お金ない」
そう、彼も
お金ない病の1人だ。
しかし、彼はちょっと違った。
「あー、お金ない」
と、ケン
「最近、どうなの?」
と、ボク
「んーーーーーー、やっぱこの前はラッキーパンチだったかもなぁ」
「凄かったもんね…」
「やばかったよな」
「結局、なにに使ったの?」
「彼女と、ディズニーランド行って〜
好きなものなんでも食べて〜
新しい、バイク買って〜
欲しかったスニーカー買って〜
もう、なくなった!笑」
「やっぱり…」
「また、来月かな!」
ハマったなこりゃ。
あれは、ちょうど1ヶ月前のこと
「あーお金ない。やばい!」
と、いつものようにケンが
嘆いていた。
「働きなさいよ」
と、ボク
「いや、働かないでそこそこのお金が欲しい」
と、自慢気にケン。
「もう、宝クジじゃない?少し、働いて全力で使ったら?笑」
と、本当に、何も考えず
言ったこの言葉が、
まさか、まさか、のことになるとは…。
続く
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Kaito Fukui
1997年 東京都出身 幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。 あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。 美化されたり、湾曲、誇張される記憶を優しく繊細な浮遊感で!