ありがとう

Emotion 第49話

ありがとう

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.10.02

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第49話

救急隊員が到着し、担架に乗せられカイトが運ばれて行く。どうしますか? と隊員の方に聞かれ、それは彼の容態は意外と大丈夫だから来ます? それとも映画を観ますか? と聞いているのか考えてしまった。映画は無いな、どう考えても。行きます、と答え一緒に救急車へ向かった。搬送先の病院を探して電話をかけている隊員、カイトの脈を測り首にコルセットを付ける隊員。メモを取る隊員。僕が乗るとすぐに救急車は発進した。何度か救急車で運んでもらったから知っている、重症であればあるほど救急車が発進する時間は短い。すぐに病院も決まったのだろう、運転も少し荒いし何となくスピードも速い気がした。

車内の隊員が全然僕と話そうとしない辺りからして、結構重症なのでは無いかと考えてしまった。考えれば考えるほど映画館のスタッフの対応に腹が立った。どうして、何もせず誰かに指示されるまで動かないでただ見ていたのか。そして指示されたらそれをわざわざ報告しに行ったのか、さっさと報告先の人間を連れてくれば良いのに。学校へ行っていない僕の方がどうして動けてしまうのか、彼らは何を学びに学校へ行っていたのか不思議に思えた。とんでもなく性格が悪い考え方だが、やはり困っている人間をただ傍観していることは人生で一番無駄で愚かな時間だと感じた。彼らは一生宝くじが当たらないだろうな。

救急車が止まり、後ろのドアが開くと大勢の医師が待っていた。カイトが重症であることがついに僕の中で確定した。誰も僕と話すことなく、とにかくカイトを連れて行った。運ばれるカイトを見送っていると救急隊員の人が背中を摩った。2人でカイトが見えなくなるまでのほんの数秒見送ると、看護師の方がこちらへお願いします。と病院内へ案内してくれて救急隊員の方達にお礼をして君はよくやった。と褒めてもらうと映画館のスタッフへ酷いことを思ってしまったと反省。焦っても他人に矛先を向けてはいけなかった。心の中で謝罪して、病院内へ向かう。

救急外来の受付の前に少しだけ並んだ椅子に座り、カイトの所持品を渡された。彼が居ない状態で、彼が持っていた物を渡されると本当に居なくなってしまったように思えた。携帯、沢山の鍵、財布、帽子。一つとってもすぐに彼の顔が浮かぶし、それを持って使っている姿が見える。

ご家族に連絡を取れますか? と看護師の方に聞かれ、カイトの携帯のパスワードがわかれば。。。。と2人で考察が始まった。何回も間違えると開かなくなってしまうからだ。紙とペンを持ってきてくれたので、第一候補から第三候補まで絞り挑戦した。結果、第一候補の昔付き合っていた彼女の誕生日で正解だった。電話帳からお母さんを探し、フルネームで登録する派なんだ。。。と驚いたがすぐに電話を掛けた。

僕「もしもし」

カイト母「あれ、もしもし?」

僕「カイトママ、久しぶりですオワリです」

カイト母「オワリ、どうしたの?久しぶり、元気?」

僕「僕は元気なんですけど、カイトが」

カイト母「ん? どうしたの? 大丈夫?」

僕「一緒に映画館へ行ったんですけど、エスカレーターで転んで倒れて。転んだところをたまたま見てなかったのでどうやってどれくらい転んだのかわからないんですけど」

カイト母「え!? 今どこにいるの?」

僕「今は病院です、カイトは救急車に運ばれて、今はMRI撮ってるみたいです。」

カイト「オワリ、ありがとう。先生はいる?」

僕「代わりますね」

看護師の方に携帯を渡すと、彼は僕の知らない事をカイトのお母さんへ話し始めた。どうやら結構ヤバい所ではなく、本当に命が危ないらしい。今すぐ来れるなら来てください。ではなく、今すぐ来てください。と彼が力強くカイトのお母さんへ伝えた時は周囲の音が消え、時間が止まったように感じた。


続く



アーカイブはこちら

Tag

Writer