ドーナツ

えもーしょん 小学生篇 #41

ドーナツ

2003〜2010/カイト・小学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.07.27

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#41
「ドーナツ」
(2003〜2010/カイト・小学生)

なぜかボクは駅にいた。

忙しそうに歩くサラリーマン。

誰かを待っている人。

急いで走る人。

そんな人混みの中をボクは

ドーナツ屋さんの方へ歩いている。

駅の階段を降りると

すぐに看板が見えて

1番古い記憶が、ボクの頭を走った。

小さなお皿にドーナツが乗っている。

普通の穴の空いたドーナツの上に

チョコがかかっている。

チョコリングドーナツ。

小さなお皿の斜め前には

プラスチックのコップに入った

オレンジジュース。

「また、ストロー噛んだの?」

と、誰かの声する。

「うん」

と、返事をすると

なぜか、小さなよお皿の横にある

ラーメンをすすった。

「ラーメン?」

ドーナツ屋さんを目の前に

過去の記憶が夢と妄想が混ざっているかもしれない…。

少し悲しくなって、お店に入る。

ドーナツが入っている

ショーケースの前で

ポケットの中を確認する。

お札が1枚。

千円札以外のお札がポケットに入ったことがないボクは

それが、五千円とも1万円とも

疑うことはなかった。

「チョコリングをひとつください」

レジのお姉さんにそう伝えると

「ドリンクは?」

と、聞かれた。

「ドリンクは…」

メニューを見ていると

ボクはすぐに嬉しくなった。

「中華そば」

ドーナツ屋では珍しい。

これは、紛れもなく漢字だ。

ラーメンじゃなかった。

あの、古い記憶の

優しい味の麺は、中華そばだったのだ。

「中華そば…」

ギリギリ読める漢字にも嬉しくなり

「オレンジジュースと中華そばをください」

と、お姉さんに伝えた。

「少しお時間かかるけど平気?」

「うん、全然大丈夫」

と、ポケットから千円札を取り出し

支払いを済ませ

先に出てきた、チョコリングドーナツと

オレンジジュースを持って

ビーサンをパタパタと鳴らしながら

1番奥の小さな席に座った。

「ふぅ〜」

ため息をひとつついて

ストローを噛みながらオレンジジュースを一口。

変わらない、小さなお皿に乗った

チョコリングドーナツを一口かじり

ストローを噛みながらオレンジジュースを飲む。

「美味しいなぁ」

不思議と目線はドーナツが入ったショーケースを向いていた。

チョコリングドーナツにオレンジジュース。

そして、中華そばを頼んだのに

まだ、300円も残っている。

嬉しい300円。

「300円か…」

期間限定のドーナツでない限り

2つは食べられる事を知っている。

苦手な計算も、ドーナツを前にしたら

苦ではない。

「150円よりしたなら2個食べられる」

少し急いで、中華そばが来る前に

ドーナツを頼みに行くことにした。

チョコリングドーナツ、最後の2口を

1口で頬張り

ゴックンと飲み込んだ。

ちょうど誰もいない隙を狙って

ショーケースの前に立つ。

チョコリングドーナツはもう1つ食べたい。

ここで新しいのを食べてみるのも悪くない。

チョコの丸いドーナツに黄色い砂糖が付いた

ドーナツが前回から気になっていた。

穴の空いていない、中に生クリームが入った

パパのお気に入りも試してみたい…。

「また、食べるの?」

と、お姉さん。

「うん」

「チョコリングドーナツと、この黄色い砂糖のください」

「はーい」

「ドリンクは?」

「大丈夫」

「はーい、ちょうど300円です」

ポケットからこっちもちょうど

300円です。

と、300円をトレーに乗せた。

小さなお皿にドーナツを2つ乗せ

ビーサンをパタパタと鳴らしながら

先程の席に戻り、中華そばがやってくるのを

ドーナツを食べながら待っている。

続く


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