映画的ロマンス

MY FAVORITE MOVIE #8

映画的ロマンス

【わたしは最悪。】

Contributed by MFM CULB

People / 2023.07.12

「映画を」楽しむ、じゃなくて「映画と」楽しみたい。別に映画に詳しくなくたってお気に入りの1本があったらそれでいいじゃん。「僕」と「誰か」が繋がって語られる、映画との日常。

時が止まる恋。
僕はそんな映画的ロマンスが大好きだ。僕以外の全てがスローモーションに動き、日常の音が消え去り、爆音の音楽と共に2人だけの時間が流れるような。そんな映画的ロマンス。

NOW SHOWING
【わたしは最悪。】





久しぶりに美術館へと足を運んだ。
今日は休日ということもあって、人が小さい箱にわんさか溢れかえっている。いつもの平日なら、靴底と床がゆっくり「きゅっ、きゅっ、」と擦れる音や、ヒールの音が優しく「コツ、コツ、」と響く音。たまーにコソコソっと聞こえる話し声、鉛筆と紙の擦れる音とか。小さな音で色んな人の気持ちの揺れ動きを感じることができたのになぁ、なんて思ったのは僕だけだろうか。僕は平日休みが大好きだった。でもその贅沢な時間はもう無いと実感し、少し落ち込んだ。美術館は鑑賞するのはもちろん、人間観察も楽しいから、僕は平日のお昼ごろに行く落ち着きを保った美術館が好きだったのだ。

今日はなんだかザワザワしすぎて落ち着かない。しかしせっかくの休日。目一杯楽しむ努力をするべく、音楽を聴きながら鑑賞をすることにした。学生の頃から欠かさず片手に持っているSONYのヘッドフォンをセットし、音漏れしない程度スレスレの爆音でAlice Phoebe Louのアルバム「Glow」を聴く。(僕のお気に入りアルバム! それにしても今年のジャパンツアーは最高だった……。この時はまだLIVE前だったから、気分を上げるために聴くことにしたんだっけ)



LIVE!!






そうすると「あら、不思議」。
人いっぱいの騒ついた空間で、動いているのは僕だけかのように時が止まった。ちょっと人がはけてる空間にいる時は無限を感じたし、それが嬉しくて無駄に動いたりもした。なんならちょっとステップを踏んでいたかもしれない。



『この空間、僕だけのもの』

と錯覚した時、ぱっと思い出したのは『わたしは最悪。』の主人公ユリヤのことだった。



ヨアキム・トリアー監督の作品『わたしは最悪。』は昨年公開のスウェーデン映画。僕はこの作品を観たとき、なぜかビビッときて翌週も映画館へ観に行ったほどお気に入り。

この映画も時が止まるほどのロマンスがある。そのシーンはユリヤが好きな人の元へと真っ直ぐオスロの街を駆け抜けていくシーン。ユリヤの衝動的な脳内から彼女自身が飛び出し、好きな人の元へと走る。この瞬間、ユリヤは映画の中の主人公そのものだった。

映画の中で時が止まるような演出やスローモーションになる演出は昔からある。そして、こういうシーンは決まって映画的だしロマンチック。なかには過度な演出に対して「えー、そんなのありえないし」と言う人がいてもおかしくない。ただ、僕の願いは「映画は映画的であって欲しい」ということ。映画はカメラやスクリーン、いろんなものを通しているんだからどう足掻こうとフィクションなはず。だからこそ映画にはたっぷり夢を見させて欲しいのだ(ドキュメントとかシリアスなものはまた別の話だけどね)。

一つのことしか考えられないほど夢中になる。その瞬間は幸福感たっぷりで気持ちがいい。ユリヤはほぐれた笑顔で時が止まった街を駆けていく。これはユリヤの気持ちとして、僕たち観客側にも伝わりやすい表現の仕方だと思った。嬉しくてどうしようもない時、予期せぬタイミングで何かと繋がった時、頭の中は一瞬止まる。何度もそのシーンが再生されるみたいにスローモーションで動いたりもする。このトキメキは感じて、言葉にするだけじゃきっと伝わらない。言葉の大きさよりも、もっともっと大きい感情が動いているから。だから大袈裟にやってこそ彼女が感じた気持ちと同じ大きさの高揚感となるのだ。

結局、音楽の後押しもあって僕だけの空間で展示を堪能することができた。低いところから急に最高潮へと達した感情と、そこにぴったりハマった音楽。そのロマンスは、恋のロマンスではなかったけど、まさに映画のようだった。

でも、ご機嫌でステップを踏んで鑑賞している僕の姿はきっと滑稽だっただろうね。何かに夢中になっている人はいつでも少しおかしい。もちろんこの“おかしい”は褒め言葉で、その姿は狂わしいほど愛おしい。ユリヤの歳上の恋人アクセルも爆音でかかるロックに合わせてエアドラムしてたっけ。このシーンも好きだったな。ついつい身体が動いちゃってる人をたまに見かけるけど、僕はこの瞬間に立ち会えると嬉しくてたまらない。その人のトキメキに少し触れられたように感じるから。僕のことも少しおかしいと感じた人がいっぱいいたはず。でも、もしかしたら僕のおかしな姿を愛おしいと思ってくれた人もいたかもね。



あっという間の休日。なんだかんだとってもいい1日になった。『わたしは最悪。』で感じた映画の拠り所。この映画が教えてくれたように、意外となるようになる。そしてなるようになってたどり着いた場所にほど思わぬ拠り所があるのかもしれない。


映画的ロマンスの行方。
ユリヤと一緒。僕は今日、己の想像力でこの空間を止めたと言っても過言ではない。いつもは映画に映画的ロマンスを感じている僕だけど、今後はもしかして、もしかしたら!! 僕にも時が止まるほどの恋があるかもしれないなぁ、なんて。自分の中で時間が歪んだら、きっとそれはロマンスの始まり。



END.



アーカイブはこちら

Tag

Writer