ヴィンテージのスプーンリング

Just One Thing #59

ヴィンテージのスプーンリング

吉田コウ(バリスタ、ラッパー)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2024.07.18

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#59


東京都墨田区両国にある『Goofy Coffee Club』。東京の東側、所謂下町といわれるエリアにあるコーヒーショップ兼たまり場。DJブースがあり、狭い店内に輪を作るように椅子が並ぶ空間には、どこからともなく人が集まり、いつの間にか会話が生まれ、いつの日か別の場所へ遊びに行くようになる“待ち合わせ場所”だ。

輪の中心には、個性豊かなバリスタたちが立つ。多くは20代の若者たち。ファッションのテイストであったり、将来目指していることだったり、それぞれ全く違う面々がそれぞれの空間を作る。彼らはコーヒーを淹れるだけの人ではなくて、会話をして、初めて訪れる人を輪の中に加えて、久々に来た人を安心させてくれる店の“顔”だ。だから、バリスタによって店の雰囲気が大きく変わる。

この日インタビューを受けてくれた吉田コウ(ヨシダコウ、以下コウ)もその一人。『Goofy Coffee Club』で提供するコーヒー豆の焙煎も担当している、いわばヘッドバリスタともいえる存在だ。ラッパー“GB__style”としての顔も持ち、音楽とコーヒーそれぞれの形で自己表現を追究している。



この日はオールホワイトの装い。武骨なシルエットのオーバーサイズシャツと太いパンツを組み合わせながら、クリーンな白と首元に巻いたグリーンのバンダナが爽やかさすら感じさせる。

「めちゃめちゃ色々な系統の服、着るんすよ。今日みたいに色を先に決める日もあれば、ハンチング被ったらいいかもな、とかもあるし、めちゃめちゃヒップホップなスタイルの日もあるし、めちゃめちゃかっちり系のブリティッシュスタイルも、テック系も着るし」

そんなコウが、肌身離さず身に着けているのがヴィンテージのスプーンリングだ。

「これだけは外さないっすね。ラップしているときも、バリスタしているときも、必ず着けて出かけます。どんな服を着ているときでも、洗い物してる時でも(笑)。もうこれは、自分の一部みたいなもんなんで」



よく見ると、人の形をしているリングには、人名が刻まれている。その名も“Charlie McCarthy”。

「気になって、調べたんです。昔、有名な腹話術師が使ってた人形の名前です。見つけたとき『うわ、めちゃくちゃいいな』って。僕、その時も既にコーヒーにはまってたんです。これを着けてコーヒードリップして、味を操れたらめちゃめちゃかっこいいなと思って」

もちろん、手に取ったきっかけは面白い形で、かっこいい見た目だったからだ。ごく普通のアクセサリーのつもりがいつしかお守りになっていた。人形を操り、人々を笑わせ、楽しませる腹話術師とお湯の温度や落とすタイミング、焙煎具合などを操り安らぎの時間を届けるバリスタの仕事を重ね合わせたコウ。

「僕自身、バリスタとして相手を思う気持ちがすごく強いと思っています。いつも一番大事にしてるのは、お客さんの期待値を超えること。きっと、美味しいコーヒーを求めて来てくれるけど、コーヒーを提供するだけじゃなくて、1日が少しだけでも 幸せになれるような体験も付け加えて渡したいって思ってるから。コーヒー1杯だけじゃなくて、色々おしゃべりもして、その人が1日の中を振り返って楽しかったなって思える何かをして加えたいんですよ」

この指輪を手にしたときと今では、もしかしたら“操る”ものが変わっているのかもしれない。正確には、広がったという方がいいか。



「まあ、ラッパーってどうしても(言動や服装が)ラフだし、仲間内でふざけていることも多いから世間からは“ワルそう”に見えるとは思うんです(笑)。バリスタはそれに比べるとある程度“きちんとした”コミュニケーションが求められると思っていて。その意味ではしっかり使い分けが必要で、僕の中でも“きちんとした”自分を見せるように心がけていますね」

バリスタとして店頭に立つとき、黒を基調とした服で店頭に立つことが多いコウ。ある種、店を訪れる人や関わる人の目も意識して服を選んでいるのではないか。

「それは全くないっすね。好きな物を着てるだけかも(笑)。服って多分、自分の“気分上げ”だと思うんです。 その日にこれ着たいなって思ったのを着て、自分の気持ちを上げる材料として使ってるかもしれないです」

ステージでもコーヒーショップのカウンターであっても、あくまで服を選ぶ目線は自分主体。その日の気持ちに一番近いものを身に着けたり、逆にその日の気持ちを創ったり。コウ自身の内面を見える形で表現しているのがそのファッションだから、傍から見ると色々なテイストの服装をしているように見える。
それでいえば、相手に寄り添う姿こそがバリスタとしてのコウだとしたら、ラッパーとしてのコウはどんな面を見せているのか。

「好きなこと、好きな音楽で集まった仲間だから、もう何も気にせずラップしちゃうし、オープンマインドでいられますよね。ヒップホップって韻を踏んだり、リズムに乗ったり、それはあくまで絶対のルールじゃなくて。ただ、自分の思いとか、伝えたいことをストレートに入れる音楽だから。僕がラップに乗せているのは、仲間への思いだったりとか、『いつもありがとう』っていう感謝の気持ちだったりとか、夢見ていることとか。僕の内側にある気持ちの出口で、突破口でもあると思います。音楽で助けられてるな、って」

彼にとっての音楽は、あくまで彼自身の内面をそのまま吐きだしたもの。だから、それを聴いた人がどうとるかは相手の自由、というスタンスだ。



音楽にも、コーヒーにも正解はない。創り手と同じように受け手が自由で居られる世界だ。だからこそ、この2つの道でそれぞれ真逆ともいえる表現者としての考え方を持つコウにも、根底で通じる部分がある。

「例えば、“最高に美味しい一杯”って誰にでも当てはまる答えはないんですよ。ただ、相手がどんなコーヒーが好きなのか、そういう情報を引き出して、どれだけ近づけられるかが僕たちの仕事。もちろん、音楽だって自分の思いを乗せる上で、きっとこういう思いをしている人もいるだろうとか、共感してくれるようにリリックを近づける場合もあります。ただ、僕のスタンスは、自分の美味しいコーヒーを入れて、自分の好きな音楽を創る。それに共感してくれたら、もうベストフレンドだよね、みたいな感じなんです」

受け手があるからこその自己表現。ただ、それをどう受け取るかは相手次第。同じではなくても、共鳴することがあればそこに何かが生まれるかもしれない。そのうちの一つが、今彼が働く『Goofy Coffee Club』という空間や、ラッパーとしてステージに立つ瞬間だ。

偶然見つけたヴィンテージの指輪が彼にとってお守りになるなんて。大昔の腹話術師も、指輪を作った人も、指輪の前の持ち主も知るはずがない。彼の解釈だ。表現者としての彼が持つスタンスの大元には、自由な解釈とそれを深める思考がある。それを象徴する存在として、肌身離さず身に着けている指輪があるのかもしれない。

「僕の身に着けているものには、それぞれ意味があるんです」

インタビュー前、嬉しそうに語ってくれたコウ。もし彼のコーヒーを飲む機会があったら、そのことについて聞いてみて欲しい。きっと答えてくれるはずだ。


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吉田コウ(バリスタ、ラッパー)
東京下町のカルチャースポット『Goofy Coffee Club』のバリスタ。柔道で大学へ進学したのち、キャンパス付近にあった屋台でコーヒーの魅力に目覚める。以降、音楽活動と並行して焙煎、抽出を学んできた。ラッパーとしての名義は“GB__style”。音源やライブ情報は本人のInstagramから。
Instagram:@gb___style

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