チョコレート

Emotion 第18話

チョコレート

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.08

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第18話

メッセージを無視している間に、友人がハワイへ行って帰ってきていた。チョコレートのお土産を貰いに彼のマンションを訪ねた。

エレベーターに乗って部屋のドアを開けると、パンツ一丁アロハシャツ。と帰国後2週間も経っているのにもかかわらず未だハワイが抜けていないことを感じた。僕はこの症状をハワイ病と呼んでいる。

人生で初めてハワイ病の患者と遭遇したのは小学1年生の9月2日、始業式の日だった。
患者の名前は、のぶ。彼は八百屋さんの2階に住んでいた。終業式の帰り道、いつものように一緒に帰り、僕はのぶの家のトイレを借りて2人でゲームをしていた。帰り際に夏休みはどうするのか、彼に聞いた。

のぶ「お父さんがパチンコで勝ったんだって」

僕「へぇ」

のぶ「それでハワイに行くんだ」

僕「え、、、めっちゃいいじゃん」

のぶ「僕は家でゲームをしていたい」

僕「持って行けばいいじゃん」

のぶ「お父さんが許さないんだ、お前はもやしだってうるさいんだよ」

僕「そうか、まぁ熱中症に気をつけてね」

のぶ「うん」

この会話を最後に、彼はハワイへ行った。終業式、体育館で全校生徒が整列をしている中、明らかにおかしい日焼けをしている人間が僕の3人前に並んでいる。薄い黄色の半ズボンに赤いアロハシャツ。半袖から見える腕は真っ黒を通り越して少し紫寄りの茶色だった。僕は1人で笑ってしまった、1ヶ月前までは心配になるほど真っ白だった彼が恐らくスパルタの父親に無理やりビーチに連れて行かれたのだろう。

僕がくすくす笑っていると、のぶはこちらに気づいて振り返る。真っ黒に日に焼けた顔、目だけが異様に白く見える。まるでジャングルの奥地で先住民に遭遇したかのようだ。

目が合うと、彼は「アロハ🤙」とサインして来た。胃に穴が開くかと思うほど笑ってしまった。教室へ戻ると、想像していた以上にハワイは楽しかったらしい。そして自分はインドア派ではなくアウトドア派だった事に気付いたと。学校が終わり、彼の家へ向かうと彼のお母さんはハワイアンキルトを作っていた。これがハワイ病との初めての遭遇だった。

そして、のぶのお母さんのハワイアンキルトは完成することはなかった。のぶは体験入学したサッカークラブで挫折して再びインドア派に戻った。

今、目の前にいる友人カイトもそうだ。何やら部屋の奥に散らかっているトランクケースからお花の首飾りを持って来て「アロ〜ハ、オハ〜ナ」と言い僕の首にかけた。

もうあと1週間もすれば、現実に戻るし大人になってこんな事をするのは案外楽しいかもしれない。と思いしばらくは付き合う事にした。


続く



アーカイブはこちら

Tag

Writer