LIFE ON BEATS.
Contributed by LUKE magazine
People / 2017.11.15
日本のヒップホップをあまり聴いてこなかった私は、数年前にISSUGIのアルバム『UrbanBowl Mixcity』(2013)を初めて聴いて、こんなビートを鳴らす日本人ラッパーがいたのかと心を打たれた。クールで深い音がミックスCDのように滑らかに流れるこの作品には、まるで夜から明け方まで続く極上のDJセットを聴いているかのような、それまで日本人のラッパーからは感じたことのない圧倒的なカッコよさがあった。そのアルバムはSCRATCH NICE、続くアルバム『DAY and NITE』(2016)はGRADIS NICE、それぞれニューヨークに住む日本人アーティストと共に作られた。青春時代に見たスケートボードビデオでニューヨークのヒップホップに触れたISSUGIにとって、ニューヨークのかっこよさを再認識させてくれたのは、このふたりだったという。
初めてのニューヨークでヒップホップがもっと好きになった
「ふたりは当時大阪で活動していたCOE-LA-CANTHというラップグループのメンバーだったんです。ライブで大阪に呼んでもらったときに仲良くなって、2009年頃に彼らが東京に引っ越して来てから頻繁に会うようになりました。NYに行って4年くらい経ちますが、彼らは住む前から何回も遊びに行ってたし、何より心からニューヨークのヒップホップや街が好きだというのが伝わってきましたね。だから、日本人なんですけど彼らからニューヨークのかっこよさを改めて感じたんです。SCRATCH NICEは、1ヶ月遊びに行くのにわざわざターンテーブルを一台持って行って、現地でスクラッチをやってくるような奴で(笑)」
そんなSCRATCH NICEとの制作を決めたISSUGIは、2013年に彼が住むニューヨークへと飛んだ。
「そのときが初めてのニューヨークだったんです。黒人ばかりがいるブルックリンのクラウンハイツに住んでいた彼の家に泊まって。家の近くにあったDUNKIN' DONTUTSで飯を買って、彼が仕事に行っている間もビートを作って。日本に帰ってくるときに、下に住んでいたジャマイカ人が『ずっとお前のビートを聴いていたけどよかったぜ』って言ってくれたり。あまり外に出てなかったですね(笑)」
黙々とビートメイクする姿勢や、実際に見たものや感じたことをビートの上で言葉にする彼の一貫したプロセスはニューヨーク滞在時も同じだった。「アルバムを作る目的で行った以上、そこで感じた何かがないと始まらない」と話す彼は、収録曲「Louder」(上部写真)のリリックでもそのときの感情を綴っていた。
「唯一、Rakimがライブをやるというブロックパーティに連れて行ってもらったんです。Styles PやHeltah Skeltahも出演していて、持ち曲をやり終えたらRakimにリスペクトを示して去っていく姿に痺れたり。ライブ中に、太ったおばちゃんが、そこらへんで売ってる食べ物を食いながら踊って口ずさむ姿を見たり。そういうのが当たり前になっている光景がすごくいいなと感じて。初めてのニューヨークでいい刺激をもらったことは間違いないし、ヒップホップがもっと好きになりましたね」
それから約3年後に発表された『DAY and NITE』では、GRADIS NICEがプロデュースを務め、ISSUGIの他の作品とは違うムードをもたらした。
「たとえば、彼が作るビートは山々とか山道という情景を感じさせるビートではないと思うんです。すごく開けたアーバンなサウンドで、都市感が表れているのが好きで。リリックを乗せたときの感触も自分が作るビートと全然違って面白いんですよね。彼らのビートには、本当に大好きな音楽があった上で、自分たちはこういう音楽を作って表現しているんだという奥行きみたいなものを感じるんですよ」
俺がやりたいことは、俺以外の奴にはできないという気持ちがあるんです
仲間と共に作品を作るISSUGIは、昨年スタートした「7INC TREE」でさらに加速する。彼が“本当にかっこいい”と思うラッパーやビートメイカーと、1ヶ月に一枚の7inchレコードをリリースするこのプロジェクトは2年目に突入し、すでに17枚目。その中には、古くから活動を共にしてきたBUDAMUNK、若き才能を持ったJJJやKID FRESINO、長野のMASS-HOLE、大阪のILLNANDES、福岡のCRAMらが名を連ね、海外からもGWOP SULLIVANやRODDY RODらが参加。ヒップホップという音楽で繋がる仲間を世界にも増やしていった。
「“絆”は絶対に生まれたと思うし、それが一番でかいですね。ヒップホップってひとりでやってもノリを形容できない、何かもっと大きくうごめいているものなんですよ。ひとりひとりの集合体というか、各アーティストの動きを含めたうねりですね。ここ何年かはそういう人や街との繋がりをまず日本で見せたい気持ちがあって。もちろん、自分が本当にやりたいと思わないと絶対に一緒に作らないので、聴いてくれた人にそれを伝えたい。本心で『こういうのヤバくない?』って言ってる気持ちを知って欲しいというか」
ラッパー、ビートメイカーとして、10年以上の間止まらずに日本で活動してきた彼とMr.PUG(MONJU)が主宰するレーベル、Dogear Recordsも今年で10周年。やり続けることの大切さを知る彼は、この先もまだまだヒップホップを作り続ける未来を見据えている。
「俺がやりたいことは、俺以外の奴にはできないという気持ちがあるんです。俺自身がやらなきゃ実現しないから。まだ日本国内にいるかっこいいアーティストとの繋がりを盛り上げたいし、海外のプロデューサーにもアプローチして、もう少し先に出る行動をしなければと感じています。あとは、単純に死ぬまで音楽を作っていたい。そういう奴がいないと日本にはヒップホップってなかったんだという話になっちゃう気がして。J Dillaって死ぬまでビートを作っていたと思うんです。PhifeやProdigyも死ぬまで曲を作ってたと思うし。だから、自分もそうありたいなって思いますね」
Photograph: ISSUGI (Lyric)
Special Thanks: P-VINE RECORDS
ISSUGI
ラッパー、ビートメイカー。MONJU / SICKTEAM / DOWN NORTH CAMPのメンバー。現在までに数多くの作品を発表するほか、「7INC TREE」で話題を集めている。
https://www.dogearrecordsxxxxxxxx.com
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