不器用なラブレター

MY FAVORITE MOVIE #2

不器用なラブレター

Contributed by MFM CULB

People / 2023.04.12

「映画を」楽しむ、じゃなくて「映画と」楽しみたい。別に映画に詳しくなくたってお気に入りの1本があったらそれでいいじゃん。「僕」と「誰か」が繋がって語られる、映画との日常。

僕の大切な思い出。
近頃は元に戻りつつある世界の様子がニュースで映し出されるようになった。もちろん戻らないものもあれば、失ったもの、手にしたもの、様々あった3年間だったと思う。そんな中「その前って何してたっけ」と思い、過去の思い出をガサガサ漁ることに。僕の初海外のお話と不器用なラブレター。

NOW SHOWING
【Love,simon】





2018年の夏。僕はふとしたきっかけで初めての海外旅行を経験した。それはRemiと行ったアメリカ・メキシコ旅だった。学生の時から仲良しな友達Remi。彼女はアメリカに住んでいる親戚がいるということで、夏に遊びに行くらしい。そんな話を聞きながらご飯を食べていると突然、「一緒に行く?」と言い出した。僕は驚いて、とりあえず「行きたい〜」なんて当たり障りない返しをしつつもアメリカの存在をなんとなく意識し始めていた。当時の僕は映画好きとは思えないほど海外への憧れが薄く「アメリカは一生に一度は行くのかなぁ」と漠然と考えているだけだった。多分憧れが薄いというよりは怖かったんだと思うけど。そこで冗談まじりの提案を鵜呑みにしてついて行くことにしたのだ。

後にこの体験は僕を大きく変え、僕の人生で欠かせない経験となった。

飛行機。僕とRemiは別々の席だったから「また降りたら」とラフな会話を交わしそれぞれの席へ。僕は長距離の飛行機に乗るのは初めてだったこともあって、なんだかソワソワ。寝ようと思ってもなかなか…。楽しみと不安が入り混じって気分がハイになって眠れないし、やっぱり映画を観ようとお決まりの流れに。





当時日本未公開だった『Love,simon』のジャケに一目惚れして僕はすぐ観ることにした。『Love,simon』は、悩みを素直に描いているティーンムービー。主人公のサイモンは最初からナチュラルに同性愛者として語られるんだけど、そんな展開には何も驚きはしない。だって、いたって普通の大学生だから。普通っていう表現もちょっとおかしいと思うけど、どんな姿でも、どんな人を好きになろうとサイモンはサイモンなのだ。でも、やっぱり学校という狭いコミュニティで過ごす人たちは人の粗探しをするのが大好き。みんな違って当たり前なのに、自分と違う者に刃を向けたがる。そんな狭いコミュニティで過ごすサイモンは学校でカミングアウトをしたいわけでもなく静かに今まで通り過ごしたいと願っていた。(カミングアウトってそもそもなに?って語られるシーンが途中にあるんだけど、このシーンは僕のお気に入り)しかしブルーという存在と出会ったことで状況は変化していく。

この映画は彼が彼であることを自分自身で証明していくストーリー。彼の変化や行動はたくさんの人へ勇気を与えることになるんだけど、その経過には仲間との関係や家族との関係などティーンらしい悩みも詰まっている。僕は『Love,simon』の素直な投げかけが大好きだ。「何かをカミングアウトしたところで何も変わらない だって僕は僕なんだから」と真っ直ぐに伝えてくれるこの作品は飛行機に乗っている僕の目を一瞬で奪い、心をほぐしてくれた。

ロサンゼルスへ着いた頃、僕は幸せな気持ちでいっぱいになり、この旅の素晴らしい幕開けとなった。

そして、飛行機から降りて素敵な映画に出会ったことを一目散にRemiに伝えると、彼女も「観て同じことを思った!!」と。打ち合わせなしの一致に2人のテンションはすでに爆上がり。やっぱり彼女とは映画の趣味が合うなと改めて感じた瞬間だった。

そんなこんなで、2週間の旅では映画の話に花を咲かせたり、今は覚えていないようなくだらない会話もした。あの素晴らしい2週間を僕は一生忘れないだろう。

旅した写真をちょっとだけ。

America










Mexico








え?ちょっとだけって言ったのに全然ちょっとじゃないじゃん!

と思った君。旅で撮った写真はフィルム写真だけでも100枚。これは写真としても想い出としてもほんの一部なのだ。今でも写真を見返すと記憶が蘇る。きっと今の僕では撮ることができないような写真。感じるままにカメラを向けて撮り続けていたからね。19歳というティーン最後の煌めきが確かにこの中に存在している気がした。

旅の始まりに『Love,simon』という映画を観れたことも、Remiに知らない世界へ連れてってもらえたことも、何もかもが完璧なタイミングだった気がして嬉しくなった。帰ってきてやりたかったこと、それはやっぱり彼女への気持ちを綴ること。僕はサイモンの真似をして彼女に気持ちを伝えた。一緒に旅して感じたことを僕なりの不器用なラブレターで。





宝物のような瞬間に触れた時、多幸感でニヤついてしまった。今後また何の心配もなく、気兼ねなく旅ができる日になったら、僕は間違いなく『自分から見える景色に彼女がいる旅』を選択するだろう。


END



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