Tao, Roxanne & Picture
Contributed by anna magazine
People / 2017.11.15
ニューヨークに住んでみて、私は思った。どこにいても、目の前の風景は、変わらない日常になるんだってこと。窓から見える風景も、電車が走る街並みも。「中目黒と変わらない。サブウェイに乗れば、山手線に乗ってるみたい」
暮らしている間、ずっとそう感じていた。ただ、東京と違うのは、まわりの人が自分を放っといてくれないということだけ(笑)。
私が住んでいたのは、ウィリアムズバーグだ。ここなら夜でも中心部からタクシーがギリギリ走ってくれるからと決めた。
初めは知り合いのアーティストレジデンスに泊まりながら家探しを始めた。ルームメイト募集の広告をwebサイトで見つけた私は、さっそく部屋を見に行った。そして、後にルームメイトになるダリアが私に言ったはじめての言葉は、 「うちにはこれがあるのよ!」だった。彼女が自慢げに戸棚を開けると、そこには洗濯機があった!(笑)。なるほど! と呆気にとられる私。ニューヨークでは建物が古く、洗濯機がある部屋は珍しいのだ。うんうんとうなずく私に、彼女はとても満足気だった。これがダリアとの出会い。最初はきれいな英語を私に教えようと気を遣っていたみたいだけど、今思えば、悪い言葉はだいたいダリアから教わった。
それぞれの部屋は6畳もないくらいの狭い部屋で、シェアスペースといえば広いリビング。ダリアは黒猫を飼っていて、名前はRoxanne(ロックサン)。なんでRoxanneかというと、ダリアの大好きな映画「プリシラ」の中に出てくる曲の歌いだしに、「Roxanne!」っていう歌詞があって、そこから名付けたらしい。私が発音すると日本語読みの「ロックさん」に聞こえる。ダリアがいない時は、私のお友達。私のベッドで寝ていることもあるし、出かける時はふと振り返ると私のバッグの中にいることもある。ねえ、出かけるんでしょ?と言わんばかりに。
可愛いんですよ、ロックさん。
広いリビングが、私とダリアのコミュニケーションの場。一緒にテレビを観ることは少ないけれど、「今日何があった?」みたいななんでもない話を普通にしていたっけ。疲れているダリアを気遣って、「私ご飯つくったけど食べる?」って声をかけたりすることがあったかな。私たちはそんなにベッタリした関係ではなかった。
ソファーの背にずっと斜めに置かれている大きな絵はダリアが誰かからもらったものか、買ってきたものか。斜めになっているのがなんとなく気になっていて、いつちゃんと真っすぐ設置するのかなって思っていたけど、私が引っ越すまでずっとこのままだった。これが私のニューヨークの日常。この写真を撮影した日もいつもと変わらない朝だった。日差しがきれいだなって思って、なんとなくカメラを手に取った。
もうダリアは出かけていたかしら。
「私、明日朝8時に起きてセラピーに行かなきゃいけないの。疲れているのに、、、。」って夜ダリアが言っていた。それだったら行かなきゃいいのに。それでもう大変そうだから。と心の中で思っていた。アメリカ人って本当にみんながセラピーに通っている。不思議。仕事もおしゃれも恋も頑張っている人が多いからかな。自分が何者かで、どんなことをしていて、何に興味があるのか、誰もが自分を大きく見せることに必死。バーに飲みに出かけるときだって、女の子はおしゃれしてキレイに化粧して出かける。私もそうだった。それでも周りの子たちはもともと顔が濃いから、横に並ぶとやっぱり薄いなって。アイラインちゃんと引かないとって。必死だったな(笑)。
今日も道を歩いていれば、「How do you do?」とか「How are you?」とか誰かに挨拶される。今日はちょっと・・・って思う日もあるけど、「I’m good」ってフライング気味で答える日々。そうなったら、つまりはニューヨークに慣れてきたってこと。そう、おせっかいでどこか放っといてくれないニューヨークが東京とはちょっと違う。そんなNYが今はとっても恋しい―——。
田尾沙織/Saori Tao
1980年、東京都生まれ。フォトグラファー。2001年第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。写真集『通学路 東京都 田尾沙織』(PLANCTON)、2013年写真集『ビルに泳ぐ』(PLANCTON)を刊行。雑誌、広告などで幅広く活動中。http://www.taosaori.com
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