YOUNG-GUNS#005
ロースタリーオーナー・山本 酉ものがたり。(前編)
Illustrat:SUGI
People / 2019.06.28
さまざまな人の歴史を切り取り物語にする「YOUNG GUNS」。
第3回目となる今回は、
コーヒーロースタリーオーナー・山本 酉(やまもと・ゆう)さんのストーリーをクローズアップ。
※実話をもとに、ちょこっと辛めのスパイス(フィクション)で味付け中。
「MAKE IT HAPPEN!」
「世界一周してみない?」
僕が入れたインスタントコーヒーを飲みながら、妻(当時はまだ婚約してなかった)は言った。その言葉には、特別強い決意が込められているわけでもなく「今日の晩御飯、なにしよっか?」みたいに、何気ない会話の延長として発せられた一言だった。
「うん。いいかもね。」
そんな妻の言葉に引っ張られるように、僕もまた、あっさりとした口調で応えた。
それから1年後。
旅の資金を貯めた僕と妻は、期待と不安に胸を膨らませ世界一周の旅に出た。
「どうしよう?」
大小あれど、旅の道中では何度も窮地と言えるような状況に立たされた。
インドのリシケシュでは40度近い高熱が出て倒れた。アフリカにいたときは、僕らの後ろをずっと付けてくる人がいた。深夜バスでうとうとしていると、バックパックの底が切られていた。とある国の情勢が不安定で、安全に国境を越えることができない。という状況もあった。
その度、僕と妻は「どうしよう?」と相談しながら、対処策や旅の進路を決めていった。
エジプトで、旅の資金が底をつきかけたときもそうだ。「どうしよう?」。
カイロにあるゲストハウスで、僕と妻はしばらく考えた。
そして、3つの選択肢から、自分たちの進路を決めることにした。
選択肢① 日本に帰る。
僕:日本に帰ると、世界一周という目標を断念する結果になってしまう。
まぁ、それもいいのかもしれないけれど……。
妻:どうしても悔いが残ってしまう。
選択肢② より極貧の旅に切り替える。
妻:最低限の食費と移動費だけを確保して旅を続けようか……。
僕:世界一周は達成できるけど、移動が目的になってしまわない?
妻:私たちがやりたい旅とは、全く違うものになりそう。
選択肢③ オーストラリアに行って働く。
僕:日本を出発する前にワーキングホリデービザを取得しているし、
オーストラリアで旅の資金稼ぎをしてみるのはどう?
妻:もともとは、最後の1年間、オーストラリアで働く予定だったけど、
確かに今行くのもいいかもしれないね。
僕:じゃあ オーストラリアでお金を貯めて、世界一周の旅を再スタートしよう!
そんな感じで、
世界一周の旅を中断し、僕らは一旦オーストラリアへ行くことになった。
「MAKE IT HAPPEN!」
オーストラリアでは、日本食屋、焼肉屋、農場などでしばらく働いた。その頃には、ここで生涯暮らすのも悪くないと思うようになっていた(実際、永住権を取ろうとしていた)。現地の人の大らかな人柄や、オンとオフにメリハリをつけて生活しているスタイルも好きだった。それに、仙台出身の僕たちからしたら、とにかくオーストラリアは温かい。
僕はもっと現地の人と触れ合える環境で働きたいと思って、シドニーで有名なコーヒーロースター「Single O」に勤めることにした。ここのボスの口癖は「MAKE IT HAPPEN!(実現してみなさい!)」。すごく語調の荒い言葉のようだが、「自分のやりたいようにやってみたら!?」とも、「自分の力を信じて取り組んでみたら!?」とも受け取れる、優しさを含んだ言葉でもある。皿洗いをしていた僕が「キッチンの仕事をしたい!」と言ったときも、この店のエスプレッソの味に感動して「コーヒーの作り方を教えてほしい!」とお願いしたときも(日本で飲んだそれとは雲泥の差があるくらい、本当に「Single O」のエスプレッソはめちゃくちゃおいしかった)。ボスが僕に言ったのは「MAKE IT HAPPEN!」だった。
僕の人生は、この「MAKE IT HAPPEN!」という言葉に
すべて凝縮されている気がする。
「世界一周してみない?」と妻から提案されたときも、
海外で起きたトラブルに対して「どうしよう?」と不安になったときも、
僕たちは、自分たちで決断を下し、自分たちの力でやりたいように進んできた。
「シドニーのコーヒーロースター『Single O』を日本にも展開させたいんです!」
それから数ヶ月後、僕はまたボスに提案していた。
日本にもオーストラリアみたいな、おいしいコーヒーが飲めて、人々のコミュニティにもなるような場所を作ってみたかった。
「カフェ事業だけでなく、焙煎から手がけるロースタリーとしてお店を構えるならやってみなさい!」。やはり、今度のボスの一言にも「MAKE IT HAPPEN!」があった。
MAKE IT HAPPEN!
どんな状況が起きてもなんとかしてみせる!
なんとかなる。じゃなくて、なんとかする!
そういう気持ちで、僕は「Single O JAPAN」を開業した。
…end
profile
山本 酉(やまもと・ゆう)/ SINGLE O JAPAN代表 SCA/CQI認定Qグレーダー。2014年にディレクターとして、SINGLE O JAPANをオーストラリア・シドニーから日本に上陸させた。本国で使用している型と同じヴィンテージの焙煎機、 プロバットロースターUG22を使用し、 独自のルートで仕入れた日本ではなかなか目にする機会の少ないコーヒー豆の卸しと販売をしている。2017年には「Tasting Bar」としてコーヒー豆の小売りと、焙煎したてのフレッシュなコーヒーを十二分に楽しめる魅力的な空間がオープン。
http://singleo.jp/
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