東京タワー

海と街と誰かと、オワリのこと。#32

東京タワー

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.01

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


エレベーターが到着すると、あっちには富士山こっちは渋谷。私の家は見えるかな。とさきは外の景色を眺めている。彼女のたまに見せる子供のような姿を見るとなんだか安心する。日が暮れて空が暗くなるまで僕らはコーヒーを飲みながら景色を楽しんだ。

さき「暗くなるのは早いね」

暗い空に浮かぶ雲を見つめさきが寂しそうに言った

僕「そうだね」

さき「今日は夜景が綺麗に思えていいな」

僕「いつも思わないの?」

さき「見慣れちゃっているからね」

僕「そうか、僕はいつ見ても綺麗に見えるよ」

僕「少し不安に思う日もあるけれど」

さき「不安?」

僕「うん、なんか夜になると昼間優しそうに歩いていた人たちが心のままの姿で歩いているように見えるんだよね」

さき「あぁ、なんかわかるな。」

僕「うん、心の中の声が表に出てるように見えるよね」

さき「うん、そうね」

さき「オワリは、彼女いるの?」

僕「突然だね。。いないよ」

さき「私で良ければ、お付き合いして欲しいです」

ビルの灯りにうっすらと頬が照らされたさきが言った。

僕「こちらこそ、僕で良ければよろしくお願いします」

恥ずかしいと嬉しいがちょうど半分に混ざったような笑顔でさきは「よろしくね」と言った。

帰りのエレベータで僕らは手を繋いだ。細く大きなさきの手は少し冷たかった。

僕「夜ご飯は学大で食べる?」

さき「私、作ろうか?」

僕「いいの?」

さき「もちろん!じゃぁ、私の家に帰ろうか」

僕「うん、東急で買い物する?」

さき「ううん、家に沢山あるから大丈夫」

僕「わかったよ、ありがとう」

電車に乗って学芸大学駅へ向かう。さっきは緊張してタジタジだったけれど今はとても幸せを感じる。

さき「オワリ、明日は何時にバイト終わる?」

僕「5時だよ」

さき「今度遊びに行ってもいい?」

僕「多分、大丈夫だと思うけど。明日聞いてみるね」

さき「うん、ありがとう」

何回か乗り換えをして学芸大学駅に戻ってきた。乗り換えはさきのおかげで地図や標識を見なくても引っ張ってくれたのでとても簡単だった。
一応、お茶と果物を買って帰ろう。と駅前の東急で買い物をしてさきのマンションへ向かう。

続く



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