いたってポジティブなバッドテイスト

MY FAVORITE MOVIE #7

いたってポジティブなバッドテイスト

【Cry-Baby】

Contributed by MFM CULB

People / 2023.06.28

「映画を」楽しむ、じゃなくて「映画と」楽しみたい。別に映画に詳しくなくたってお気に入りの1本があったらそれでいいじゃん。「僕」と「誰か」が繋がって語られる、映画との日常。

勿体ぶっても仕方がないので先に公言しておくが、僕はジョン・ウォーターズ作品が好きだ。そして彼の作品につきまとう“バッドテイスト”。この言葉も好き。だってその言葉は彼の作品にとってぴったりすぎる褒め言葉だから。

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【Cry-Baby】





文章を書くようになってから言葉が持つ独特なニュアンスに興味が湧いた。この“バッドテイスト”という言葉も悪意を持って使えばもちろん嫌な言葉だが、誰にどう使うかによっては唯一無二の褒め言葉に変身する。だから彼の作品に対してバッドテイストと投げかけるのは、この上ない褒め言葉だと僕は思う。端くれものを描く彼の作品のキャラクターたちは基本的にケバケバしい。そして、よく喋るし口も悪い。そんなキャラクターたちが織りなす物語だから、やっぱり作風もドンチャン騒ぎで“グッドテイスト”とは程遠いのだ。
でも何かに固執した不器用な姿は愛おしくなるばかりで、愛すべきキャラクターとして名をあげるには間違いない。つまり彼の作品は全て「愛すべき端くれ者たちを描いた“バッドテイスト”ムービー」ということ。これは悪口ではなく本当のことだし、愛すべき端くれものに対して嘘を固めた言葉を吐くのも違う気がするしね。ここは正直に。

先日、彼の本『ジョン・ウォーターズ 地獄のヒッチハイク』をようやく読了した。ビビットピンクの表紙が目を惹く(彼らしいね)この本は彼自身がヒッチハイクで旅をする様子を綴るというフィクション。フィクションと言っても彼が主人公だし、いつもと変わらない様子で破天荒さと下品さはしっかり健在しているから一瞬「本当の話じゃない?」「彼ならこんな旅していそうじゃない?」と錯覚してしまうほど。ぶっ飛んでいるからこそノンフィクションに感じてしまうという異例事態で、これがまた面白い!! 休日、天気のいいお昼とかに、あえて強いお酒を飲みながら読んだりすると、もうそこは本の中の世界。だらしなさ過ぎる自分を感じながら幸せになっちゃうような、不思議な本なのだ。

“ようやく読了”というのも、この本の購入日はちょうど一年前で、僕にとって読み進めにくい本だったから。理由は二つ。買ってから楽しみすぎてすぐに読み始めてみるものの、ストーリーが細かく区切られているもんだから日を跨いで一個ずつ見てしまったこと。読むペースが尋常じゃないほどノロノロだったのだ(もちろん途中に長い休息もあった)。二つ目の理由は結構ヘビーだからという単純な理由。彼の映画作品同様、コミカルでふざけた様子は一見見やすいなと感じるものの、蓋を開けるとやっぱりハードな下ネタが待っている。あれはもはや「下ネタ」っていう言葉でも表したくないほど……あんな軽いニュアンスのジャンルじゃない!! だからコンディションが悪いとなかなか見れないんだよね。

そんなこんなで一年間かけて、ようやく読了。




せっかく読み終えたのならば「彼の作品も見直したい!」と思うのが僕の面倒な性格で、さっそく選んだのは『Cry-Baby』。

うん。誰かに突っ込まれないうちに言っておくけど、彼の中では一番ライトな作品を選びました。(だって本を読んでヘトヘトなんだもん……)

こちらはみんな大好きジョニー・デップが主演の学園もの。80分ちょっとの短い作品なんだけど、それ以上に大満足できる最高ムービー! この作品は下ネタも全然ないし、あってもそこまで下品じゃない。だいぶ風変わりな学園ものには違いないけど、それがまたいいところ。50年代のスクールテイストな衣装に身を包んだジョニーデップ率いる不良仲間たちはだいぶ破天荒だけど実は優しかったり、仲間想い・家族想いのいい奴。そんな仲間たちといつも通りブンブン言わせながら学園生活を送っているところで、自信に満ちた優等生ヒロインと出会い、恋に落ちる。もちろんその子はいわゆる“派閥”が違うからお決まりの「不良×優等生=禁断の恋」法則に。ロミジュリ的なね!! ここまで言えばこの先のストーリーはなんとなく想像がつくだろうから今回は割愛する。気になる人は一度観てみるのがいいかもしれない。



ちなみに『Cry-Baby』の作風は少しミュージカル調になっているんだけど、ストーリーやキャラクターがぶっ飛んでいるおかげでミュージカル映画独特の“やりすぎ感”も馴染んで違和感なく見れるのがいいところ(僕はミュージカル映画好きですよ)の一つだ。ロカビリーの香りムンムンな不良バンドが演奏する「King Cry-Baby」はこの作品いち最高で、僕の大好きなシーン。このシーンは毎回通しで見終えた後に戻ってもう一度見るほど! 今日もこのシーンを3回見て、僕は大満足。


本も映画も堪能した僕は何の制限もかけず、自分の本能だけに従って走り出し、その足で空港へ。あてもなくアメリカの地へと飛んでいった。そしてスタート地点のボルチモアで完璧なほどまっすぐ伸びた腕の先にグッドサインを掲げ、ヒッチハイクを決行した。片手はグッドサイン。もう一方の手には『ジョン・ウォーターズ 地獄のヒッチハイク』をぎゅっと持ちながら……。

僕の妄想トリップ序章はまだまだ始まったばかりだ。



END



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