なるほど

Emotion 第8話

なるほど

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.07.21

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第8話

友人のカイトとは小学生の頃から一緒だ。2人で予定を合わせて遊ぶようになったのは高校を卒業してから。お互い知っているようで知らない。

カイトの怒りも収まり、片手に持っていたフランクフルトの棒を捨てたいと思った。彼の愚痴を目一杯聞いたけれど、何ひとつ覚えていない。僕はかなり都合のいい人間のようだ。

だからこそ、どう思う? と言う質問がとても苦手だ。どうも思わないし、聞いてるふりして聞いていない事がバレた時が怖い。想像もしたくない。とにかく苦手だ。

僕「そろそろ行くよ」

と、本当はどこにも行く予定はないけれどとにかくフランクフルトの棒を捨てたくないしょうがなかった。

カイト「どこに行くの?」

僕「カフェに行こうかな」

カイト「俺も行くよ」

いや、来ないでくれ! そもそもカフェに行くなんて思ってないしフランクフルト買ってお金ないし。

僕「いや、1人で考えたいことがあるから」

カイト「なに、何か悩んでんの?」

僕「まぁ」

カイト「どうした、吐き出してみなよ」

僕「いや、そんな大した事じゃないから」

カイト「大したことだろ」

僕「いや、暑いしいいよ」

カイト「お前が暑いからとか寒いからとか言う時は大体気を使ってる時だよな」

僕「まぁ、そういうことにしておいて」

カイト「なんだよ、話せばいいじゃん」

僕「いや、もう忘れた。もう悩んでないから」

カイト「え、、、、」

僕「そう、もう悩んでないんだけど。何か大事な事だった気がして、それで多分カフェに行って涼しいところで一息ついたら思い出すと思うんだ」

カイト「じゃあ、一緒に行くよ」

僕「いや、いいって。それより会社戻りなよ」

カイト「戻らないよ、このまま辞めるよ」

僕「いや、それはダメでしょ」

カイト「大丈夫だよ」

僕「一言だけでも言いなよ」

カイト「なんて?」

僕「うーん、あなたの話全部つまらなかったです。何も面白くないし、何か臭いし。ずっと臭いし。とにかく地獄でした。くらい言って来なよ」

カイト「やばいな」

僕「うん、僕はやばい。やばい人間だよ」

カイト「そうだな、小学校とき学校でウンチするとみんなにウンコマンとか言われるからって毎日我慢して帰り道、八百屋さんの上のノブの家のトイレ勝手に使ってたもんな」

僕「見てたんだ」

カイト「まぁ、階段降りて来たらウンコマンって言おうと思って毎回待ってたけどそのままノブとゲームしてたでしょ」

僕「そうね」

カイト「やばい人間の悩みなんて聞いてもどうせわかんないし。とりあえず行ってくるわ」

僕「うん、手は出しちゃダメだからね」

カイト「それくらいわかってるわ、こっちは社会人だから」

僕「なるほど」


続く



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