Interview:Modern Twist Signs
Contributed by kimura kei
People / 2018.06.20
アメリカやヨーロッパに行くと手描きで描かれたサイン(看板)をよく見かける。
そうしたサインを描く職人のことを「サインペインター」と呼ぶ。
ブレのない直線や美しいカーブを自らの手で描くそのスタイルに魅了された、
日本人サインペインターの中原真也さん(Modern Twist Signs)に話をうかがった。
きっかけはスケートボードの裏
−サインペインティングに興味を持ったのは?
最初に絵に興味を持ったのは、中学生の頃に乗っていたスケートボードがきっかけだったような気がします。アメリカの空気を感じたというか。スケボーって別に絵が描いてなかっても出来るじゃないですか。だから絵はカッコ良かったり面白ければ良い、という雰囲気が好きでした。過激な表現も多かったり、自由な感じに魅了されたんだと思います。特に好きだったのは大柄の黒人スケーター、ジョバンテ・ターナー(Jovontae Turner)のモデルで板全体が真っ黒な顔になっていて、目と口の部分だけ白でプリントされているものでした。キックフリップすると一瞬顔が見えるんですよね。サイズが大きくて自分の身体に合わなかったのですが気に入ってました。2週間ぐらいで折れてしまって部屋の棚にしたんですが、今でも実家にあります。
−そこからサインペインティングの世界へどう繋がったんですか?
スケボーのビデオの影響でHIPHOPが好きになって音楽活動をする傍ら、イベントのフライヤー、友達のアーティストのジャケット、ロゴデザインなんかを作ったりしていました。グラフィティも好きだったので、見様見真似で色んなアルファベットをデザインしたり。中でも「TWIST」というタグネームで活躍していたバリー・マッギーの作品の文字のフォルムや全体のバランスには圧倒されました。2000年に渋谷PARCOギャラリーで行われたバリー・マッギー、ESPO、トッド・ジェームスの3人の展示イベントの際に、SITEというグラフィティライターの友達が誘ってくれて、二人でアシスタントをしたのですが、その経験はより深く手描きの文字について考えるきっかけになりました。それから随分後になるのですが「SIGN PAINTERS」という一冊の映画の本に出会ったことが人生を左右しました。
−その本にはどんなことが?
様々なサインペインターとその作品、インタビューが掲載されていて、そのスタイルは十人十色でした。何度も見ているうちに自分が好きなスタイルのサインペインターはサンフランシスコの「NEW BOHEMIA SIGNS」というサインショップの出身だということがわかりました。その店のボスのデーモンという人も載っていましたので、その人に会いに行きたいと考えるようになりました。
−現地へ行こうと思ったのは技術を学ぶためですか?
勿論それもありますが、何もかも、全部知りたかったです。サインペインティングの歴史は古くから続いているものなので、その文化を体感したいと考えていました。極端な話ですが、サインペインターの生活や、ランチに何を食べているかまで知りたかったです。
−実際に現地で得たものは何ですか?
ペイントについては勿論ですが、それ以外のことも沢山。例えば、看板に使う板の処理などの実用的な部分。良いサインを描いて終わりではなく、作った看板が雨風にさらされることも考えて、どんな素材でどういう処理をすればいいのか。彼らは長い歴史を経て試行錯誤していますから、正解を知っているんです。
−現地のサインペインターからどんな刺激を受けましたか?
彼らは自分たちが持っているノウハウを隠さずに、なんでも教えてくれました。そんなオープンマインドな姿勢はとてもカッコ良く、影響を受けました。技術を教えあったり、意見を交わしたり、当たり前かもしれませんが誰もがペイントのレベルを高めようと本気になっていました。
※「NEW BOHEMIA SIGNS」での詳しい修行のレポートはこちら(URL:practic3)で記事になっています。
−ご自身でワークショップも行われていますが、そういった経験からでしょうか?
ペイントすることはとても楽しいことなので、ワークショップを通じてサインペインティングに触れることで、その楽しさを共有出来ればと考えています。今年の4月に池尻大橋にあるIID世田谷ものづくり学校内にスタジオがオープンしましたので、そこでワークショップも出来ますし、スタジオに来て貰えれば実際に沢山の手描きのサインを見てもらうことも出来ます。興味のある方はアポイントを取って覗きに来てください。
−海外ゲストを招いたワークショップも行われているようですが?
6月の頭にアルゼンチンからアルフレド・ジェノベーゼさんという方をお招きし、ブエノスアイレスの大衆芸術「フィレテアード」のワークショップを開催しました。サインペインティングとは少し違った南米独特の色彩やデザインの大衆芸術ですが、共通点や学ぶところが多く、実りの多いワークショップになりました。日本では殆ど知られていない文化だったのですが、沢山の人が参加してくれたのも嬉しかったです。年内にはNEW BOHEMIA SIGNSのボスであるデーモンのワークショップも考えています。
街の看板を全てサインペインティングに!
−仕事をする上で大切にしていることはありますか?
サインペインターの仕事は大きく分けると2種類あると思います。デザインから任せてもらうアーティスト的な仕事と、クライアント持ち込みのデザインを描かせてもらう職人的な仕事です。今後自分がどういうサインペインターになりたいのかを常に意識しながら、その2つのバランスを考えるようにしています。
−中原さんの今後の目標を教えてください。
近い目標は、8月にロンドンで開催されるレターヘッズ というイベントに参加することですね。これは世界中のサインペインターがミートアップする、ペインターのフェスティバルのようなもので、1975年にスタートして徐々に大きくなっています。最近では年に1〜2回、世界各地で行われていますが、アジアではまだ開催されたことがありません。世界中のサインペインターと会って知識を共有出来るのは今からとても楽しみです。
そして、いつの日か、街じゅうの看板を手描きにしたい。よくサンフランシスコの街は可愛いという話を聞きますが、実際にヘイト・アシュベリーやミッション・ディストリクトなんかを歩いていると、彼らが制作した手描きの看板が沢山あって、そのエリアの空気を作っています。もちろん建物や自然の力も大きいですが、看板を描いて街を彩る、通りを歩く人の気分を良くするというのは、とても素敵なことだと思います。僕もサインペインターとして、そんなことができたら最高ですね!
好きなことを追求し、進むべき道を見つけた中原さん。サインペインティングの世界に飛び込み、さまざまな出会いを経て、街中の看板を手描きサインで彩るという大きな夢を語ってくれました。異なる業種だけれど、中原さんの仕事を楽しみながら真摯である姿勢や、好きなことを熱心に語る姿からは、好きなことを仕事にしていく上で見習うところが多くありました。サインペインティングを通じて世界を幸せにする中原さんの活動に今後も注目です。
<プロフィール>
中原 真也 ( Shinya Nakahara )
手作りのサイン(看板)を提供する「Modern Twist Signs」代表として、東京
をベースにハンドペイント(手描き)でサインを制作中。IID世田谷ものづくり学
校にあるスタジオで初心者向けワークショップ、海外ゲストワークショップなども行っている。
http://moderntwistsigns.com
年内に行うデーモンのワークショップに向けて協力していただける方、取材してくれるメディアなどを募集中です。興味のある方はぜひご連絡ください!
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kimura kei
LUKE magazine編集長。 制作会社Mo-Greenで広告制作などの仕事に精を出す傍ら、“anna magazine”編集としてアメリカ国内を取材。いまは男性向け情報誌“LUKE magazine”創刊へ向けて、企画作業の日々。