Just One Thing #35
ヴィンテージのレザーベスト
颯(『シャオ・そなちね』店主)
Contributed by ivy -Yohei Aikawa-
People / 2023.06.29
絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」
#35
夕方5時、古い商店街の仄暗いアーケードへ西陽が差し込んだ。群馬県前橋市の中心市街にある弁天通り商店街の一角にある、古着屋『シャオ・そなちね』はオープンの準備をしていた。
店主である颯(以下、カザム)は、県内の大学生。昼間は学業に専念しているため、店がオープンするのは土日の昼間と平日の夜だ。店舗兼住居の木造2階建てを借り、古着、古道具、雑誌が並んでいる。パートナーのLoyと共に店頭へ立ち、商店街を通りがかる人へ時折挨拶を交わす。
この日のカザムは、大きなハットに花が全面にプリントされたTシャツ、半端丈のデニムとサンダル、そして、ブラウンスウェードのベストを着ていた。
「一目見たときに、『ダサいな』ってものが好きなんですよね(笑)ダサいを組み合わせて、かっこいいを創るというか。あまり人が欲しがらないようなものを組み合わせて自分の雰囲気で『いいじゃん』って思わせたら勝ちだなって思うんで。このパンツとか、わかります?『PIKO』っていう……僕らが小学生の時、みんな着ていたサーフブランドなんですけど。今、あんまりおしゃれな人が着ているイメージないですよね。シルエットも、半端丈だけど、サルエルみたいにダボっとしたわけでもなく、決してヒップホップの雰囲気も感じさせないという(笑)」
どこか懐かしさを覚えるけれど、現行のトレンドやメインストリームで持て囃されているものとは明らかに毛色が違う。そういうものこそ、手に取りたくなる。この日着てきたものの中で、カザムのお気に入りはベスト。祖母からのお下がりだという。
「高校3年生の頃から着ています。おばあちゃんのお下がりです。ネパールで買ってきたやつをもらったんです。登山が趣味で、昔はよく海外に行ってたみたいです。その当時のことはあまり詳しく知らないんですけど……。」
このベストに限らず、お下がりを着ることが多いというカザム。実は、この店も店内の商品はすべて、貰いもの、お下がりで構成されている。
「全部いただいたもの。自分らの親世代が着ていて、大事にしていたけど、今着られていないものがコンセプトですね。買い付けはしていないんです」
そういわれてみれば、『シャオ・そなちね』のハンガーにかかっている服はどれもあまり見慣れないタグのものが多い。少なくとも、知っているブランドの服であったり、他所の古着屋にありそうなものはあまり見当たらない。
「実は古着の知識ってあんまりなくて。どのブランドのどのくらいの時代の……とかあまりわからないんです。ただ、服が好き。あと、他人と被りたくない。そういう中で今のルーツになるお店と出会って」
長野県長野市へパートナーのLoyと共に訪れた際、全くの偶然だった。同じく大学生が営む、買い付けをしない古着屋と出会う。今はもう、閉店してしまったが、その店との出会いは『シャオ・そなちね』の二人にとって非常に大きな転機となった。
「元々服が好きだったのはもちろんあるんですけど、若い世代が集まって何かやる場が欲しいっていう思いがずっとありました。仕入れをせずに古着屋をやっている大学生と出会って、これならお金もかけずに始められそうだな、って」
もしカザムが服以外のものを好きだったら、この空間は全く別のものになっていたかもしれない。
「僕の中で一番大きかったのがフェスの『森道市場』なんです。その時までそれほど音楽を聴いていなかったんだけど、ある日Loyさんが『これ、絶対行くべきだから、明日学校休んで』って言ってきて(笑)実際行ってみてめちゃくちゃ刺さったんですよ。結構、普段あまり見ないような変わったお店が沢山あって、若い人がやっているお店やアーティストもたくさんいて。こういう空間を作りたいなって思うようになったんです」
その上で、彼が思い描く「何かやる場」では、どんなことが繰り広げられていくのだろう。
「やっぱり、夢を持っている人にはかなり惹かれる感じがしますね。ふにゃふにゃしてる人に見えたとしても、おれ、こういうことがやりたいんだよ、って語れる仲間というか。大学に行っていても、ゴールが一緒で生きているところがあるじゃないですか。好きなものを自分の中でもって生きている人がかっこいいなって思いますね」
「人と被りたくない」という自らの言葉を証明するように、それぞれが違うゴールに向かって進むための秘密基地をカザムは創ろうとしていた。他にはない強烈な個性を持つモノやヒトを集めて、まだどこにもない空間を創りたい。話ながら、この店が持つ可能性にワクワクしている様子が伝わってきた。
恐らく誰とも被らないであろう、お下がり、ネパールのベストはそんな彼の目指す姿とぴったり重なる。さて、そんな彼にとって、「人と被りたくない」と思うようになったルーツはどこにあったのか。もしかすると、それはこのベストをカザムに授けた祖母だったのかもしれない。
「おじいちゃんは博士号持ってて、堅実で賢いほうの意味で『ヤバい』おじいちゃんなんです。で、おばあちゃんはそのお堅さをぶっ壊しちゃう人というか(笑)いつもめちゃくちゃ元気で、怒っているのを見たことない。山登る以外にも、お花を育てたり、味噌作ったり、何でも自分でやりたい人です」
幼い頃は、そんな祖母の存在が当たり前だったというカザム。今でも祖母の家で過ごすことが年に何度かあるという彼が、その存在の特別さに気づいたのは成長してからだった。
「今思えば、何やってみても『いいじゃん、いいじゃん』、『すごいね!』って肯定してくれる人ですね。今でも、夏休みにおばあちゃんちで味噌作り手伝いに行ってます(笑)」
気になったことはやってみる。何かをやってみたい人を肯定する。カザムの「人と被りたくない」というマインドは、根本として自分の意志をもって行動したいという欲求に集約されているように思う。『シャオ・そなちね』を動かしているのも、そこにあるといっていい。
きっと彼の祖母が今の店を、この日の着こなしを見たら大きな笑みを浮かべるはずだ。
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颯(『シャオ・そなちね』店主)
群馬県高崎市出身。現在は県内の大学に通っている。昨年、前橋市の弁天通り商店街に古着屋『シャオ・そなちね』をオープンした。パートナーであるLoyと共に店の運営はもちろん、県外のポップアップ等にも精力的に参加している。店名の由来は、自身が大ファンだというバンドTempalayの曲名とお気に入りの映画『ベスト・キッド』から。
Instagram:@zam_1327
『シャオ・そなちね』Instagram:@xiao.sonatine_from_jb
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ivy -Yohei Aikawa-
物書き。メガネのZINE『○○メガネ』編集長。ヒトやモノが持つスタイル、言葉にならないちょっとした違和感、そういうものを形にするため、文章を綴っています。いつもメガネをかけているメガネ愛好家ですが、度は入っておりません。