海浜公園でエスケープ

えもーしょん 中学生篇 #38

海浜公園でエスケープ

2010〜2013/カイト・中学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.06.24

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#38 「海浜公園でエスケープ」
(2010〜2013/カイト・中学生)

遠い向こうに、彼の姿が見える。

遠く、遠くに、走ってゆく…。

芝生の小山を、駆けて行く。

遠くへ、行っては

また、こちらの方へやってくる。

しかし、あの

わがままボディから

想像も出来ないほど、すばしっこい。

「降参、降参だよ」

彼との距離はおよそ3メートル。

これは、単に

飼い主と、ペットの距離ではない。

獣対人間。

いや、生物的な距離に感じる。

おデブな、フレンチブルドックをボクは

完全に、なめていた…。

1時間ほど、前のこと。

いつものように、窓から差し込む

光の溜まり場で気持ちよさそうに寝ている。

わがままボディのフレンチブルドック。

バローズだ。

まるで、犬とは思えないほど

無防備に、お腹を広げ

イビキをかいて寝ている。

夕方になり

光も、だんだんと

オレンジ色になってくると

ママが、今日の夜ご飯はなにか。

と、ぶつくさ独り言を

呟き始める。

毎日、同じことを言っているので

聞くにたえず、寝ているバローズを

抱き抱え、ゆっくりと階段を降る。

「ん? ここはどこだ?」

寝ぼけた、バローズが

半目で自分が置かれている

状況を理解しようとしている。

玄関で彼を下ろし

ハーネスを付けると

やっと、理解したようだ

10cmほどしかない

小さな尻尾が

プリプリと、揺れている。

「ちょっと、今日は遠くへ行こうか」

玄関を開け、外に出るとボクは

少し、スッキリして

今日は、少し遠くへ行きたい気分になった。

いつもの、散歩コースを周り

そのまま、夕陽の方へ。

海から、道路を渡り

海浜公園の、芝生の広場。

誰もいないので

たまにはいいか。と

バローズのハーネスを外すと

彼は、見たこともない速さで

エスケープ。

突然の事で、手も足も声も出ず

ただ、遠くへゆく

彼のお尻を眺めるしかなかった。

どんどん遠くへ。

少し、疲れて

小山の上で、寝ている。

「びっくりしたよ…もう!」

そう言って、近くへ行くと

嬉しそうに、エスケープ。

そして、ボクを試すかのように

近くへ、やってくる。

彼との距離はおよそ3m

獣対人間の

生物的な距離。

一歩、足を前に

ボクが先手を打つ。

余裕な表情でボクを見る彼。

もう、一歩

足を前に置いた。

すると、グイッと

お尻を突き上げ、戦闘態勢に。

「かかって来い」

と、言っているのか。

無音の間合い。

ボクが先か、彼が先か…

ボクを試すように、じっとこちらを向いている。

ボクは、両手をゆっくり伸ばし

指先と彼との距離が50cmほど。

サッと、首を掴み

暴れる彼を、持ち上げ

ハーネスを付けた。

降参か、反抗か

彼は、じっとこちらを見て動かない。

「まったくもう!」

わがままボディのフレンチブルドックを抱え

とぼとぼ、と家へ帰る。

なんだか、気分がいいままで。


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