連載

Emotion 第24話

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Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.17

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第24話

連載をしてみませんか。と突然メッセージが届いた。ウェブ媒体だけれどちゃんとお給料も頂けると。どんな内容か聞くとその人は何でもいいと言った。1番困る返事だ。

とにかくオフィスで一度お話ししましょう。トンカツを用意している。と言われて断る訳には行かない。

当日、外は土砂降りだった。昨日までは1番お気に入りのお洋服を着て行こうと思っていたけれど、やはり動きやすく濡れてもいいシャカシャカのお洋服で行くべきか。窓の前で数分悩んだ。しかし、これはお気に入りのお洋服を着て行くことで言葉では伝えられないけれど実はとても嬉しいです。と気持ちが伝わるかもしれない。そう思いアイロンをかける。

ふぅ、と一息。靴を履きドアを開ける。真っ直ぐに雨が空から落ちている。少し遠回りになるが家からすぐのバス停からバスに乗って最寄駅ではない、聞いたこともなかった駅に向かう。地下鉄に乗って携帯のマップを頼りに少しづつ少しづつ編集部と思われるビルへ向かった。

指定されたビルに着いたのは20分前だった。大きな扉の前で雨宿りをしながら5分前になるまでぼーっと空を眺めていた。

ゴンっ

大きな扉に寄りかかっていたとき、中から人が出てきた。

女性「オワリさんですか?」

僕「はい、こんにちは」

女性「お待たせしてすみません、どうぞ」

勝手に待っていたのは僕の方だが、やはり編集部の人は想像していたよりも一枚上手だった。綺麗なオフィスの会議室に案内された。部屋は大きな窓と古い時計が置いてある。

女性「少しお待ちくださいね」

僕「はい、ありがとうございます」

先程の女性が部屋を出てから数分後、今度は僕と同い年くらいの女性がやって来た。

女性「お待たせしてすみません」

と、冷たいお茶と一緒に和菓子を持って来てくれた。全く待っていないし約束の時間までまだ少しあるというのに素敵なおもてなしを受けてしまった。1番お気に入りのお洋服を着て来てよかった。もしかしたら、何か伝わったのかもしれない。そんな訳はないけれど、こんな時に素直に喜ぶには何か理由が必要なんだ。


続く



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