『ブリジストン』のオールドフレーム<br>迫田桂輔(サイクルショップスタッフ)<br/>

Just One Thing #5

『ブリジストン』のオールドフレーム
迫田桂輔(サイクルショップスタッフ)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2022.05.05

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#5

 春の休みは、少し遠くへ行く予定を立てたくなる。ただ、自転車があると、いつも暮らしている街の周りがほんの少し広く感じるんだ。行ったことがなかった店、家と職場の間にある知らない街、最寄り駅の反対側、そういう「身近な旅」に、自転車はおあつらえ向きだ。

 中目黒のサイクルショップ「tokyobike(トーキョーバイク)」のスタッフ、迫田桂輔(サコダケイスケ、以下ケイスケ)と待ち合わせたのは、雨が上がって急に肌寒くなった4月の土曜日。出勤前の朝、目黒銀座商店街を颯爽と駆け抜ける自転車と彼の影。朝の寒さからか、フリースベストを羽織り、スウェットとデニムのラフで動きやすさを重視したスタイルだ。跨る自転車は、目を惹くメタリックブルーだった。

「この自転車は、3代目で、乗って2年になるかな」

 ケイスケの愛用品は、やっぱり自転車。それにしても、なかなか見ないカラーだし、街中で見るほかの自転車とも違う味がある。それもそのはず、ケイスケの愛車は、ブリジストンのヴィンテージフレームと以前乗っていた自転車のパーツを掛け合わせた、カスタム仕様だ。



「これは『WOOD VILLAGE CYCLES』の木村(祐太)さんにオススメされたフレーム。前の自転車はフレームの形で気に入らないポイントがあって。どうしようかなあ、と思っていた時に木村さんがいいのあるよ、ってこれを。形はもちろんなんだけど、この少し褪せたような色味がたまらなくて」

 まるで古着屋でヴィンテージデニムを見つけてきたみたいなノリだ。ちょっとわくわくするような、宝探しみたいな感覚。そのエピソードを語る口調からして、楽しそう。『WOOD VILLAGE CYCLES』は幡ヶ谷にあるサイクルショップ。古い自転車のパーツやフレームを再構築した、世界に一つだけの自転車を提案してくれる。店を営む木村祐太さんは、tokyobikeの元同僚。ケイスケにとって、初めてのオールドフレームのバイクだった。

「前いた会社が、寮に近かったんだ。かといって歩くには遠い。車を使う必要もないし、丁度いいから自転車に乗ることにして」

 前職は、自動車の内装部品の設計技師。地元、岡山県の会社に就職して、愛知県へ出向したのち、転職を機に上京した。

「今の職場で働くことが決まって、東京へ出てきた。自転車があると、街の色々な場所が生活圏の中で線になる感覚があって。それがすごく楽しかったね」

 自宅は西荻窪、職場は中目黒。長めなサイクリングを経て通勤する日々、途中には面白い寄り道スポットがたくさんある。



「一番好きな街は幡ヶ谷かなあ。あの周りのコーヒー屋さんに寄るのがやっぱり一番好き。僕の好きなカルチャ―があの街に集中していると思うし、そこにいて楽しい。一番好きなのは、やっぱり『Paddlers Coffee(パドラーズコーヒー)』」

 ケイスケは、無類のコーヒー好き。中でも幡ヶ谷の人気コーヒーショップ、Paddlers Coffeeは味もさることながら、ウッド調の落ち着いた内装やスタッフとの丁度いい距離感もお気に入り。アパレルやアートの展示も頻繁に行われるから、ちょっと足を運んだら何かしら面白いものに出会える。コーヒーの味はフルーティーな浅煎りが好みで、休みの日には自転車へ跨り、気になるコーヒーショップへ出かけることが多い。

 自転車があるから、行きたい場所へ気軽に寄れる。元々多趣味なケイスケにとって、そうして完成した自転車がある生活は、何より魅力的だった。



「実のところ、自転車が一番の趣味、っていうほどガチガチな自転車好きではなくて(笑)今働いているtokyobikeなら、自転車ギークだけが働いているわけじゃないから、そこが魅力的で入社したんだ」

 自転車は、あくまで生活を広げて、楽しくしてくれるもの。だから、自転車そのものよりも、そのおかげで広がりを持つライフスタイルに魅力を感じた。入社したtokyobikeでは、前述の木村さんや、コーヒーに精通したメンバーやアウトドア好き、様々なバックグラウンドを持つ仲間たちに迎え入れられた。

「僕が好きなものに対して、より詳しかったり、違う角度から掘り下げていたり…そういう人がたくさんいて上京したての頃はすごく新鮮だった」

 街から街へ、自らの足で開拓した場所に集まる人たちと互いに刺激しあう日々。そんな毎日をケイスケはこう表現する。

「点と点が繋がっていく感覚」

 たまたま先輩に誘われて足を運んだポップアップで仲良くなったお店、コーヒー好きな仲間からおすすめされたカフェ、この前通りがかって気になっていた古着屋…。東京の街に散らばる点が、生活導線として、そして何より、人と人の繋がりとして線になる。歩くよりも少し遠くへ行けて、電車や車よりも小回りがきく…そんな自転車があることで成り立つ街の楽しみ方だ。

 よくよく考えてみたら、このカスタムバイクも、元々同じ職場にいた先輩からおすすめされたもの。仕事と趣味、職場とプライベート、点と点が繋がった故に出会えた新しい趣味ともいえる。

 人の繋がり、場所の繋がり、そして何より、気が向くままに動き回る足として、ケイスケにとって欠かせない相棒がこの自転車なんだ。わざわざ遠くへいかずとも、未知なる発見や出会いがあるかもしれない。彼と話して、慣れ親しんだ東京の街がこれまでよりもずっと広く感じられた。



迫田桂輔(サイクルショップスタッフ)
 自転車があるライフスタイルを提案する「tokyobike」の中目黒店、店長。自身も自転車と共にあるライフスタイルを実践している。愛車のカスタムバイクで職場がある中目黒や自宅がある西荻窪周辺以外にも頻繁に足を運ぶアクティブ派。ファッションは仕事柄、動きやすいカジュアルなスタイルが基本。スウェットとボーダーカットソーがお気に入りで、休日には、古着屋ウォッチも欠かさない。お気に入りの古着屋は幡ヶ谷の「Mr.Clean(ミスタークリーン)」。

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