川と石

Emotion 第48話

川と石

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.28

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第48話

調布駅に到着して、大きなロータリーをなぜか一周した。映画館はパルコの奥にある新しい建物の中にある。この街はゆっくりゆっくり新しくなっているように感じた。二子玉川の名前は出さない方が良さそうだね。と2人で話しながら映画館の入っている建物でコーヒーを買って、チケットを購入。

念のため、ポップコーンやその他のフードメニューを確認したが最近すぐに胃がもたれるようになってしまったため、何も買わずにスクーンへ向かった。チケットのQRコードをかざしてゲートを過ぎるともう一つ上の階へ進む。大体犯人は最初には登場しないよな。と製作側の目線から犯人を考察し話し合いながらエスカレーターに乗った。右足からエスカレーターに乗せて手すりは触りたくないな、と思いながら肘を乗せた時。

「ゴンッ」

すぐ後ろからとても鈍い音が聞こえた。そしてすぐに女性のキャッ! っと言う高い声が聞こえて振り返ると、カイトが上半身はエスカレーターの外、腰から下はエスカレーター側に、仰向けに倒れていた。流れるエスカレーターの段差にカイトの足がゴトンゴトン。と揺れていた。意識がないとすぐに感じて急いでカイトの方へ向かうが、逆方向でなかなか降りることが出来ずに諦めて一度上まで登り、左下にある赤い非常停止ボタンを押した。

ブーーー

と、ブザー音が鳴り響きカイトの方へ向かうと野次馬が集まっていた。皆んな何もせずぼーっと立ったまま何かしないといけないのはわかっているが、汚いものを触りたくないように、怖いものを触りたくないように自分の限界の近さまで近づくものの、やはりただ立ったままだった。僕がカイトの側に到着すると数名が心配しているが何もしないまま去って行き、映画館のスタッフが大丈夫ですか? と僕に聞いてきた。

僕は腹が立ってしまった。なぜなら声を掛けてきた映画館のスタッフは先ほどまで何もせずにカイトを見下ろしたまま、立っていたからだ。自分からは動かないが、誰かが動くのを待っていたのだろう。僕は君が倒れても決して助けないからな。と心に誓い、とりあえず救急車を呼んでください。と伝えた。電話を片手に持ったまま、彼はどこかは行ってしまったので結局自分の携帯から救急車を呼んだ。

救急車が来るまで、とにかく頭を打ったら動かしてはいけない。と最近自動車学校で教わったばかりだったので着ていたパーカーを脱ぎカイトの首を固定した。幸い流血はしていないのでなんとかなって欲しい。とようやく彼の無事を願うほどの時間が出来たと感じた。


続く



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